コラム

リビアに散った2人の戦場カメラマン

2011年04月21日(木)16時42分

passport090411.jpg

命を賭して リビア反体制派の拠点都市ベンガジで取材中のヘザーリントン(3月25日)
Finbarr O'Reilly-Reuters

 既に多くの読者が知っているはずだが、世界屈指の戦場カメラマンが20日、リビアで取材中に亡くなった。同国西部ミスラタ近郊で砲撃を受けたためだ。

 情報は錯綜しているが、米ニューヨークタイムズ紙のC.J.シバースの書いた記事によると、カメラマンで映画監督のティム・ヘザーリントンとゲッティイメージズのカメラマン、クリス・ホンドロスが死亡した。また、パノスピクチャーズのガイ・マーティンは骨盤に重症を負って手術を受けている。

 ヘザーリントンは、アフガニスタン戦争をめぐるドキュメンタリー映画『レストレポ〜アフガニスタンで戦う兵士たちの記録』の監督として知られている。同作は今年のアカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた。『レストレポ』と同じ従軍取材から生まれた写真集『INFIDEL(異教徒)』は、本誌(ニューズウィーク日本版)でも「俺たちが生きる戦場の日常」として特集した。

 西アフリカでも長年活動を続けたヘザーリントンは『リベリア〜無意味な内戦』や『悪魔は馬に乗ってきた』など、アフリカの紛争を題材にしたドキュメンタリー映画でもカメラを担当した。

 マーティンは南スーダンやグルジア、パレスチナに赴き、戦闘や日常生活をいきいきと記録した。それらの作品は、本人のウェブサイトで見ることができる。

■不快な写真が雄弁に物語るもの

 ホンドロスの名前を知っているかどうかはともかく、彼の作品はおなじみのはずだ。9.11テロのニューヨークからイラク、アフガニスタン、エジプト・カイロのタハリール広場まで、世界のどこかで大事件が起きれば彼は必ずそこにいた。

 昨年は大地震に襲われた後のハイチから印象的なフォトエッセイを送ってきた。

 イラク戦争後の05年には、国民議会選挙へ向けて緊迫度を増すイラクで起こった突発的な悲劇にも立ち会った。停止命令をきかずに走り続けたため米兵が銃弾を浴びせた車に乗っていたイラク人家族の悲惨な死だ。車を運転していた父親と助手席の母親は息絶え、子供5人が残された。

「イラク人家族を襲った悲劇の銃弾」(本誌2005年2月2日号)
passport090411-chris-1.jpg
passport090411-chris-2.jpg

 彼が撮る不快なまでに衝撃的な写真の数々は、戦争の犠牲の重さを読者の心に刻み付ける。イラクの日々について、彼はこう語っている。「私が言えるのは、現場に行って目の前にあるものを写したということだけ。そこで何が起きているのか読者が分かるように、自分のベストを尽くした。自分自身が理解できない時でさえも」

 彼らに何が起こったのか、詳しい情報が入り次第、記事を更新したい。今はただご家族、友人の方々にお悔やみを申し上げたい。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2011年04月20日(水)16時15分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 21/4/2011. © 2011 by The Washington Post Company.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-中国、欧州EV関税支持国への投

ビジネス

中国10月製造業PMI、6カ月ぶりに50上回る 刺

ビジネス

再送-中国BYD、第3四半期は増収増益 売上高はテ

ビジネス

商船三井、通期の純利益予想を上方修正 営業益は小幅
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 2
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 5
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 6
    米供与戦車が「ロシア領内」で躍動...森に潜む敵に容…
  • 7
    娘は薬半錠で中毒死、パートナーは拳銃自殺──「フェ…
  • 8
    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…
  • 9
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」…
  • 10
    衆院選敗北、石破政権の「弱体化」が日本経済にとっ…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 6
    渡り鳥の渡り、実は無駄...? 長年の定説覆す新研究
  • 7
    北朝鮮を頼って韓国を怒らせたプーチンの大誤算
  • 8
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 9
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 8
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 9
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story