コラム

W杯代表罰する腹黒ナイジェリア大統領

2010年07月02日(金)16時36分

passport020710.jpg

無残な敗退 ナイジェリアは対韓国戦で引き分け、1次リーグB組の最下位に終わった(6月22日)
Rogan Ward-Reuters

 ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会のナイジェリアはひどかった。1勝もできずに1次リーグ敗退と、本当に最悪だった。

 ただしここで言いたいのは、その代表チームへの罰則について。グッドラック・ジョナサン大統領は6月30日、ナイジェリア代表チームが今後2年間、すべての国際大会に参加することを禁止した。

 ちょっと待て。本気か? 普通なら何かウラがある、と考えるだろう。そう、その通り。実に面白い背景がある。サッカーの代表チームを、ナイジェリアが抱える苦悩の象徴として考えてみるといい。

「スーパーイーグルス(代表チームの愛称)の成績は、ナイジェリア全体を混乱に陥れている現政権の問題を象徴している。試合内容に国の現状が反映されている」と、国外在住のジャーナリストによるニュースサイト、サハラリポーターズのコラムは書いている

 堕落し、まともに統制されず、トレーニング体制がぼろぼろで若い才能を登用できないから選手は高齢化している。だからスーパーイーグルスはファンからも見放され、多くの人が国際大会への参加禁止も当然と受け止めている。

 一方のジョナサンはここで、かなり重要な政治姿勢を示そうとしている。彼が大統領に就任したのは5月6日のこと。短い在任期間の中で、ナイジェリアで最も軽蔑され汚職にまみれた政治家たちを摘発し、追放してきた。今回の決定は、現政権が旧弊を一掃するつもりだというさらなる意思表示だ。なんと奥深い。

 もちろん、この姿勢が見せかけにすぎないのではないかという疑問はある。少なくともサハラリポーターズのコラムは、その点でジョナサンを信用していない。


 びっくりするのは、今回の決定を下したのが大統領だったことだ。6月にカナダで開かれたG8サミット(主要国首脳会議)に、140人もの代表団を引き連れて行った大統領。悪事にまみれた産油国を率いる大統領。米軍需企業ハリバートンや独企業シーメンスから賄賂を受け取ったという友人や政界有力者を逮捕し、起訴する勇気もない大統領。(中略)暴利を貪る与党議員が議会を牛耳る国の大統領----。

 ジョナサンが自らの失策を踏まえて、スーパーイーグルスのように2年間、大統領職から退くつもりはあるだろうか? 優れた国政を競うワールドカップがあったら、ジョナサンは代表入りできるだろうか? 私にもよくわからない。

----エリザベス・ディキンソン
[米国東部時間2010年07月01日17時14分更新]


プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story