コラム

金正日後継者、スクープ写真はやはり別人?

2010年04月21日(水)16時34分

 毎日新聞は4月20日、「スクープ記事」を掲載したように見えた。北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記の三男で、後継の有力候補とされているジョンウンを、近影の写真で特定したのだ。

 ここ数カ月、ジョンウンへの権力移行に向けて着々と準備が進められているという報道が北朝鮮から少しずつ伝えられてはいるが(北朝鮮の後継争いに関するクリスチャン・カリルの最新のリポートも参照してほしい)、ジョンウンの最近の姿を写した写真は存在しなかった。メディアはこれまで、ジョンウンの子供時代の写真を使っていた。

 毎日新聞英語版はこう報じている。


 ほとんどの写真には、紺色のスーツとみられる服に赤のネクタイ、黒っぽいコート姿で金総書記の隣に立つジョンウンが映っている。現地の案内人の説明を一緒に聞いているように見える。その中の1枚には、ペンを持ちながらメモ帳を広げるジョンウンの姿が映っている。

 現地メディアは具体的な日時を伝えていないが、製鉄連合企業所を現地指導してから数日以内に報道されている可能性が高い。

 関係者によると、平壌のある衣類関連企業で、「今日(3月5日)の労働新聞(朝鮮労働党機関紙)をしっかり見るように」との指示が出された。職員の1人が上司に「何が載っているのか」と尋ねると、上司は「金大将(ジョンウンの愛称)のお姿がたくさん掲載されている」と答えたという。


 だが韓国筋は、写真の人物が本当にジョンウンかどうかは疑わしいとしている。韓国の英字紙コリア・タイムズはこう報じている。


 韓国統一省の当局者は、報道を否定。写真の人物はジョンウンではなく、金正日が視察に訪れた咸鏡北道の金策製鉄連合企業所の関係者だと思われるとコメントしている。匿名で取材に応じたこの当局者によると、金正日が同企業所を視察に訪れた09年の2月と12月、さらに10年の3月にも、この男性と同一の人物が写真に写っていたという。

「このことから、統一省はこの人物が同企業所で働く関係者だと考えている」とこの当局者は語っている。




 他の韓国政府関係者は、毎日新聞の報じた男性は30代か40代に見え、現在26歳のジョンウンにしては明らかに年齢が高いようだと話している。


 こうした疑問の声にも関わらず、毎日新聞は写真の人物がジョンウンだとする姿勢を崩していない

 何より、この騒動は北朝鮮に関する報道の重大な問題点を明らかにしている。北朝鮮関連のニュースは、いつでも刺激的で、ほとんどが信頼性に欠ける。最もセンセーショナルなスクープをねらおうと、韓国と日本のメディアの報道合戦が過熱するなかで今回のような記事が出たのではないかとも考えたくなる。

 単なる噂や信用性の疑わしい匿名の情報源に頼るしかないというのが北朝鮮取材の実情だ。頭に血の上った記者たちは、いとも簡単にカモになりかねない。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年04月20日(水)13時17分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 21/4/2010. ©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story