コラム

クイアバに来て、悔いはない

2014年06月24日(火)15時42分

 日本代表が初戦を戦ったレシフェは、高温多湿な北東部の地方都市だった。旧市街に行ったら、なぜだかイスタンブール(トルコ)のアジア側の街並みを思い出した。次に行ったリオデジャネイロは、何でもありの大都会だった。日本がギリシャと引き分けたナタルは、ヤシの木が目立つ熱帯の田舎町。そこから4時間かけて飛んだサンパウロは、長そでのシャツだけだと肌寒いくらいの気候だった。これだけ国土が広いと、そのくらい気温が違ってもおかしくないのだろう(成田から飛行機に4時間乗れば、台北まで行けてしまう)。

 そして、今日着いたクイアバで5カ所目というわけである。12カ所の開催都市のうち最もへんぴなのはアマゾンにあるマナウスだと思うが、クイアバは「田舎度」でマナウスに次ぐ堂々の2位だろう。

■こんな町にも人を引きつけてしまうワールドカップ

 けれどもクイアバに来たおかげで、わかったこともある。まだ11日間しかいない身では大胆な推測かもしれないが、もしかするとブラジルという国は、リオデジャネイロとサンパウロと、首都ブラジリア(クイアバの後に行く予定だ)の3都市を除くと、ひたすら広大な「田舎」なのではないか。そればかりでなく都会と田舎の格差があまりに大きいから、僕のように戸惑う者も出てくる。

 3都市以外がどのくらい田舎かといえば、たとえば僕が今いるクイアバのホテルは、シャワーのお湯が出ない。まったくの水というわけではないし、シャワーが頑張っていることはわからなくもないが、ぬるい湯がちょろちょろと出るだけだ。レシフェとナタルの宿も似たようなものだった。これらの町の宿は、清潔度の面でもあまり安心できる感じではなかった(もちろんどの町にも一流のホテルはあるのだが、大会関係者の予約でとっくに埋まっているし、空きがあったとしてもべらぼうな特別価格が設定されている)。

 しかも宿から歩ける範囲に、飲食店を含めて商店というものが見当たらない。宿の近辺を歩いていて人とすれ違うことさえ、ほとんどない(だから日本で盛んに言われているような意味で「治安が悪い」とは思えない)。

 それがリオデジャネイロやサンパウロへ行くと、とたんにいろんなことが先進国並みになる。あるいは先進国だのなんだのという枠では測れない、いい味を出してくる。僕はサンパウロの洗練された空気にすっかりやられてしまったし、リオデジャネイロには決勝トーナメントの試合を見に再訪する予定なので、もっといろんな面を味わってきたいと思っている。

 今夜がクイアバの歴史のなかで、滞在する日本人が最も多い夜になることはまちがいない。この町が田舎であることは想定内だった日本人サポーターもいるだろうし、コロンビア戦だけのために組まれたツアーで着いたばかりのファンもたくさんいるだろう。

 日本代表の1次リーグの試合会場には、リオもサンパウロもブラジリアも入らなかった。しかし田舎だということは薄々感じながらも、みんなクイアバにやって来た。お湯の出ないホテルで、ホステルの2段ベッドで、地元の人が貸し出している部屋の隅に置かれたマットレスで、今夜のクイアバではおそらく数千人の日本人が眠りに就いている。いろいろ厄介なことが待ち受けているとわかっていても、こんな町にも人を引きつけてしまうのがワールドカップというイベントの力だ。いつも思うことだが、いったいこれは何なのだろう?

 ともかく日本代表の3戦目は、クイアバ時間の火曜日午後4時に始まる。たぶんとても暑いだろうが、いい試合になることを祈る。

プロフィール

森田浩之

ジャーナリスト、編集者。Newsweek日本版副編集長などを経て、フリーランスに。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)メディア学修士。立教大学兼任講師(メディア・スタディーズ)。著書に『メディアスポーツ解体』『スポーツニュースは恐い』、訳書にサイモン・クーパーほか『「ジャパン」はなぜ負けるのか─経済学が解明するサッカーの不条理』、コリン・ジョイス『LONDON CALLING』など。

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