コラム

我が心のリオ、腹ぺこのマラカナン

2014年06月17日(火)17時19分

 こまかい雨が降るなかで日本がコートジボワールに逆転負けしたのを見届けて、宿に着いたのが午前1時半。少しだけ仮眠をとった後、飛行機をつかまえてリオデジャネイロにやって来た。

 この日はマラカナン・スタジアムで、アルゼンチン─ボスニア・ヘルツェゴビナの試合を見る。このブログの最初に書いたけれど、ブラジルに来ようと本気で決めたのは開幕の1カ月前くらいになってからだった。だから昔から憧れだったリオデジャネイロにいることが信じられなかったし、これから自分がマラカナンに行こうとしていることはさらに信じられなかった。いかにマラカナンでも、ブラジルでワールドカップが開かれなかったら僕は来ていなかっただろう。

 簡単におさらいしておくと、マラカナン・スタジアムはブラジルサッカーの聖地というか総本山というか、とにかく大変な場所である。1950年代には実に約20万人を収容したという。しかしその後スタンドの落下事故などが起こり、改修に着手。現在の収容人員は約8万人で、全席椅子席の近代的なスタジアムに生まれ変わった。

 リオデジャネイロでマラカナンがどれだけ大きな存在かは、地下鉄の駅に行けばわかる。どの駅にもホームはもちろん、駅のあちこちに「マラカナン行きはこちら」という意味のサインが出ている。都市の中でひとつの施設や場所がこんなにも存在感をもっている例は、世界を見渡してもそれほどないんじゃないだろうか。

photo1.JPG

photo2.JPG

 リオに着いて宿に直行して荷物を置いたら、もう午後4時を回っていた。マラカナンでの試合は午後7時から。レシフェでの日本戦でもそうだったが、スタジアムに行っても手荷物検査やボディーチェックがあって、中に入るまでに相当に時間がかかる。レシフェではその順番を待つ時間が1時間半近くに及び、観客から大ブーイングが起きた。ちょっとあわててマラカナンへ向かう。到着したのは午後5時半ごろだ。

 ここで僕は前日に続いて、猛烈な空腹をおぼえる。今日も朝食の後、まともなものを食べていない。口にしたものといえば、レシフェからリオへの飛行機の中で出されたチーズをはさんだパンだけだ。スタジアムの売店で何か買おう。たしかハンバーガーくらいはあったはずだ。

 売店には長い列ができている。しかも前の人との間に無駄なスペースをつくるから、列が必要以上に長くなっていて、時間がものすごくかかるように見えてしまう。外国でこういうときにいつも思うのだが、日本人はきちんと列をつくることが体に染み込んでいるのだろう。「順番待ち整列ワールドカップ」があったら、つねに優勝候補にあげられることはまちがいない(2番手はイギリス人じゃないかと思う)。

プロフィール

森田浩之

ジャーナリスト、編集者。Newsweek日本版副編集長などを経て、フリーランスに。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)メディア学修士。立教大学兼任講師(メディア・スタディーズ)。著書に『メディアスポーツ解体』『スポーツニュースは恐い』、訳書にサイモン・クーパーほか『「ジャパン」はなぜ負けるのか─経済学が解明するサッカーの不条理』、コリン・ジョイス『LONDON CALLING』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾でウクライナ攻撃 西側供与の長距離

ビジネス

FRBのQT継続に問題なし、準備預金残高なお「潤沢

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story