コラム

外国人労働者の受け入れを恐れるな

2014年06月17日(火)19時31分

今週のコラムニスト:レジス・アルノー
〔6月3日号掲載〕

 日本はもっと多くの外国人を受け入れるべきなのか? 日本人なら誰もが、このままでは日本が深刻な人口減少に見舞われると分かっている。なかでも問題なのは労働力の不足だ、ということも。

 日本政府は女性が子供を産みやすい環境を作ろうと手を尽くしているが、人口減少を食い止めるほどの効果は得られないというのが専門家の一致した見解。残された道は、好むと好まざるとにかかわらず、移民の受け入れしかない。

 だが日本は、これを拒否し続けてきた。OECD(経済協力開発機構)によれば、2010年、日本の人口に外国人が占める割合はたった1.7%だった。しかも世界中でグローバル化が進むなか、現在の日本における在留外国人数は2010年時点よりさらに減少している。

 少なくとも日本は、多くの国々と同じように二重国籍を認めるべきだろう。なぜ日本は、日産自動車を窮地から救ったカルロス・ゴーンに日本国籍を与えることができないのか。

 移民の代わりに帰化を推進することで人口減対策を行う国もあるが、日本にはそうした方針もない。人口統計学者のニコラス・エバースタットは「人口800万人の孤立主義的なスイスと比べても、日本はその3分の1しか帰化が行われていない」と指摘する。

 日本政府は「外国人研修制度」を拡大することで労働力減少の穴埋めをしたい考えのようだ。企業などが外国から労働者を受け入れ、現場で実践的な技能を習得させることを国が支援する技能実習制度は、93年に導入された。そもそもは滞在中に日本の技術を伝え、自国で活用してもらうという国際貢献が目的だった。

■外国人家政婦は子供に悪影響?

 しかし現実には、この制度は日本企業が立場の弱い労働者を獲得する手段に悪用されている。「(この制度を利用して来日した)外国人労働者は転職ができない。だから雇用主の言いなりになってしまう」と、ある弁護士は説明する。日本はこの不当な制度を改善し、外国人労働者にも日本人と同じ権利を与えるべきだ。そうすれば優秀な労働者が日本に残り、日本経済に貢献することにもつながる。

 だが、日本政府の考えは違うようだ。4月の経済財政諮問会議・産業競争力会議で、田村憲久厚生労働相は育児・家事支援分野での外国人労働者の活用について、こう発言した。「子供たちの健全育成の観点から、人格形成という時期であることから、わが国の言語や文化を十分に理解されていない外国人の方々が携わるのは問題があるのではないか」

 早い時期に外国人と触れ合う機会を持つのは、子供にとっていいことではないのか。富裕層の中には、子供のためにあえて外国人の家政婦を雇う人もいる。人口720万人の香港では約30万人の外国人家政婦が働いているが、1169人しか外国人家政婦がいない日本に比べて育児環境が劣悪だと言えるだろうか。

 外国人との触れ合いが子供に与える影響を考える上で、1つの例となるのは天皇陛下だ。少年時代の天皇陛下には、エリザベス・バイニングというアメリカ人女性の家庭教師がいた。

 99年に彼女が亡くなったとき読売新聞には、彼女が家庭教師を務めた4年間で天皇陛下は大きな影響を受けたとする記事が載った。記事によれば、天皇陛下が伝統に反して子供たちを自らの手で育てると決めたことや、家柄に関係なく他者への尊重を重んじるようになったのは、彼女の影響によるものだったという。

 日本の多くの子供たちにとっても、外国人と接することのメリットは大きいだろう。陛下にとっていいことは、国民にとってもいいことに違いない。「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」に所属する愛国者の田村厚労相も、この意見に賛成してくれないだろうか。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 9
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story