コラム
東京に住む外国人によるリレーコラムTOKYO EYE
東京名物「英語Tシャツ」は夏のひそかな楽しみ
今週のコラムニスト:マイケル・プロンコ
〔10月26日号掲載〕
夏の東京を歩いていると、道行く人の胸に目が行く。性的な関心からではない。Tシャツにプリントされた言葉を見てしまうのだ。
東京では男女を問わず、多くの胸に哲学的な警句や笑えるコメントが書いてある。それも英語で。東京は間違いなく世界で最も「Tシャツ英語」が多い都市だ。
でも、夏の終わりはTシャツの季節の終わり。一見まじめそうな人々の胸のユーモラスな英語が、夏の間じゅう私を仰天させ、楽しませてくれただけに残念だ。
通り過ぎるTシャツの字を読むには速読の技術が要る。以前は文法もでたらめで意味不明なものが多かったが、最近はそうでもない。Tシャツ業界も英文法のチェックを始めているのかもしれない。
文句も以前より長くなり、一瞬では読めないものもある。こんなのもあった。「I want to find a way for me to...(○○のやり方を知りたい)」。彼女のウエストにある続きの文字は読めなかった。「I'll become the all-over girl who will...(100%の女の子になって○○するつもり)」。彼女が一体何をするつもりか、続きを知りたいものだ。
この夏のお気に入りはこれ。「Karma, knowledge and recommendations my ass, try to make the best of a bad situation.(運命、知識、忠告なんてクソ食らえ。苦しい状況でもベストを尽くせ)」。なるほど。死ぬほど暑い日には役に立つアドバイスだ。
モデルのような美人が着ていた高級そうなTシャツにはこうあった。「Call my Agent(エージェントに電話して)」。別の魅力的な女性のはこうだ。「Open key, come to my room(鍵は開いてるから、部屋に来て)」。本気かどうかはともかく、せっかく誘ってもらっても、返事をする前に彼女は通り過ぎてしまう。
Tシャツの字は大急ぎで読まなければならないから、シンプルさが大事だ。うまいのは動詞を省略してある。例えば「Online always(いつでもオンライン)」とか、「No more and no less(ちょうどぴったり)」のように。
■Tシャツは風と共に去りぬ
俳句のような簡潔さには自由な解釈の余地がある。「frustration(欲求不満)」や「fashionable(おしゃれ)」にも隠された意味があるのかもしれない。
とはいえ動詞があれば、より複雑なコメントが可能だ。例えば「Am free at last(ついに自由だ)」がそう。「私もそうなりたい!」と、思わず心の中でつぶやいた。「It's all about me (自分がすべて)」は利己主義を批判しているのだろうと思うが、もしかしたら着ている本人が自己中心的なのかもしれない。
東京では街の注意書きも意図が不明確なものが多いが、Tシャツも同様だ。私は同じ日にこういう2着のTシャツを見た。「The most important things aren't things(重要なものは物ではない)」と「Shopping makes me happy(ショッピング大好き)」。東京は矛盾するものが仲良く同居する街。この2枚も同じ店で売っていたのかもしれない。
ところで、日本語のTシャツが少ないのはなぜだろう。「This is my way of doing it(これが私の生きる道)」と英語で宣言するのは平気でも、日本語だと恥ずかしいのか。日本語なら、みんなは胸の「掲示板」に何と書くのだろう。
私が欲しいと思ったのはこれ。「Just say no to everything(何にでも『ノー』と言え)」。じゃあ試しに「ノー。読みたくない」と言ってみる? 既に読んでしまった後では手遅れだけど。
この「ノー」Tシャツを着た男性は上りのエスカレーターに、私は下りに乗っていたので、どこで買ったかは聞けなかった。彼とTシャツは風と共に去り、永遠に消えてしまった。賛同の笑みを浮かべた私を、1人都会に残して。
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