コラム

2つの歌謡祭に見る 「学ぶべき」韓国の力

2011年01月11日(火)15時42分

今週のコラムニスト:クォン・ヨンソク

 流行語大賞には漏れたが、昨年のキーワードとして「K─POP」を忘れるわけにはいかない。忘年会でも、KARAや少女時代などのコピーユニットが大いに場を盛り上げたことだろう。

 ニューズウィークが「韓国をうらやむ日本人」という特集を組んでから約10年。韓流スターやK─POPアイドルのおかげで、今では当時の数十倍の人たちが韓国に好感を持っている。しかも昨年は、文化だけでなく政治、経済、スポーツにおいても「韓国に学べ」という声が上がった。

 週刊東洋経済などの経済誌は相次いで韓国経済を特集。テレビ東京の『ワールドビジネスサテライト』は、G20開催中にソウルに特設スタジオを設け、韓国企業・文化の躍進の秘密を大特集した。

 こうした特集の共通点は、韓国に勢いと強さと羨望を感じていることだ。僕の知る限り、日本が韓国を心底「強い」と認め、うらやんだのは初めてではないか。

 日本人にそう思わせているものは何だろう。そのヒントを僕は意外にも、年末の同じ日、同じ時間帯に放送されていた2つの歌番組で見つけた。

 1つはフジテレビの『FNS歌謡祭』。番組ではおなじみの名曲集映像が流れ、デビュー50周年の加山雄三と、25周年のTUBEの特別ライブが行われていた。50周年と25周年とは......。子供の頃に嫌というほど聞いた「君といつまでも」の途中で、僕はチャンネルをかえた。

 すると、BSジャパンで『K─POP NIGHT IN JAPAN』のライブの様子が放送されているのを見つけた。セットの豪華さや音声などではFNSにかなわなかったが、勢いは明らかにK─POPに分があった。次に何が飛び出すか楽しみで目を離せないのだ。

 一方、FNSは完全に同窓会モード。石井竜也の「君がいるだけで」や、和田アキ子の「あの鐘を鳴らすのはあなた」など往年の名曲のオンパレードだ。さらにトリで登場したのは、デビュー30周年の近藤真彦だった。

■韓国の強さを生んだ失敗の教訓

 K─POPは、年功序列で平和で穏やかに暮らすJ─POP界に押し寄せた第2の黒船かもしれない。美脚と腹筋を武器に、一糸乱れぬダンスと歌唱力で見る人を圧倒するニュータイプの若者たち。外国語も堪能な彼らは、グローバル化という時代の趨勢に迅速に対応したネオ・コリアの「最高級ブランド」だ。

 いま起きているのは、まさに過去とは逆の現象と言える。かつて朝鮮は、自分たちの伝統にこだわり、時代の潮流に敏感に対応できなかった。「過去志向性」ゆえに国権を失い、どん底まで落ちた。

 だが今、その屈辱の歴史が強迫観念となり、是非はともかく韓国はグローバル化という世界的な荒波に迅速に対応できた。失う物などなく、過去の歴史を克服するというコンセンサスがあるから、変革の道を突き進むことができる。韓国の勢いと強さの秘密は、この決断力と推進力、そして失敗を恐れない勇気と立ち直りの早さにある。

 一方、今の日本はどうか。いまだに「開国」でもめ、意思決定スピードも遅く、過去の栄光を捨てられず、どの分野でも過去の人が幅を利かせる。かつての朝鮮と今の日本がダブって見える。

 昨年は、韓国併合100周年という節目の年だった。この年にK─POPブームが起こり、韓流が若者にまで浸透したことは、日韓新時代を予見させるものがある。日韓関係はこれまでが異常だったのだ。「失われた100年」を経て、今ようやく相手を対等な国として見る正常化(常態化)が始まったのだと思う。

 日本とJ─POPの未来も決して暗くない。妙なプライドや優越感を捨て、K─POPのようにアジアで現地化の努力をしよう。そして、日韓のファン同士の交流イベントも開催する。それがJ─POPの再生のみならず、日韓新時代をも加速させるだろう。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:米テキサス州はしかで死者、ワクチン懐疑派

ワールド

アングル:中国、消費拡大には構造改革が必須 全人代

ワールド

再送米ウクライナ首脳会談決裂、激しい口論 鉱物協定

ワールド

〔情報BOX〕米ウクライナ首脳衝突、欧州首脳らの反
MAGAZINE
特集:破壊王マスク
特集:破壊王マスク
2025年3月 4日号(2/26発売)

「政府効率化省」トップとして米政府機関に大ナタ。イーロン・マスクは救世主か、破壊神か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 3
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身のテック人材が流出、連名で抗議の辞職
  • 4
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 5
    米ロ連携の「ゼレンスキーおろし」をウクライナ議会…
  • 6
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 7
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 8
    日本の大学「中国人急増」の、日本人が知らない深刻…
  • 9
    【クイズ】アメリカで2番目に「人口が多い」都市はど…
  • 10
    「売れる車がない」日産は鴻海の傘下に? ホンダも今…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 3
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 4
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 5
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 6
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 10
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story