コラム
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東京に住む外国人によるリレーコラムTOKYO EYE
南アで見えた「日韓」の明るい未来
今週のコラムニスト:コン・ヨンソク
サッカーワールドカップ南アフリカ大会はクライマックスに向けて進んでいる。だが、日本と韓国にとってのクライマックスはやはり、決勝トーナメント進出だった。
自国開催以外で、日韓両国はともに初の決勝トーナメント進出という快挙を成し遂げ、世界中のオッズメーカたちを見事に嘲笑ってみせた。日韓の代表を、アジアのサッカーをバカにしてきた「専門家」たちに、「ざまあみろ」といってやりたい。
今回、日韓はともに厳しい組に属しながら、審判の手助けや相手の明らかなミスのおかげではなく、実力で勝ちぬいた。韓国は初戦で、04年UEFA欧州選手権の覇者ギリシアを内容面でも圧倒。アジアのチームがヨーロッパのチームを終始圧倒した歴史的勝利でもあった。
NHKの解説者である山本昌邦は、韓国が先陣を切ってアジアを引っ張ってくれたと高く評価した。他のメディアも韓国の快勝やお馴染みのストリート応援(パブリック・ビューイング)を連日のように報じ、日本も続けと代表と国民を鼓舞した。
結果は見てのとおり、日韓はシナジー効果を生みながら共にこれまで越えられなかった壁を打ち破った。韓国は前大会でも1勝1敗1分けで勝ち点4だったが、得失点差などで苦杯をなめている。いつも国際大会ではあと一歩のところで苦杯をなめてきた韓国だが、今度は世界の壁を「実力」で超えることができた。
しかも今回のチームは、最大のハンデとまで呼ばれた監督の下で戦った。選手たちは史上最高のチームといわれたが、監督は史上最低といわれていた。予選では熱心なサポーターからは応援拒否も見られたほどだ。
案の定、ホ・ジョンム監督は初戦で大活躍したチャ・ドゥリ(監督のライバルであるチャ・ボムクンの息子)を気に入らないと言って2戦目では先発から外し、韓国サッカー協会の重鎮の息子であるオ・ボムソクを起用。結果的にアルゼンチン戦では、彼が狙われて大敗した。
だが、日本代表がオランダと互角の戦いを演じ、決勝トーナメント行きの可能性が高まったことが監督に冷静さを取り戻させたのか、最後のナイジェリア戦にはギリシア戦と同じメンバーで臨み、辛くも逃げ切った。以前韓国代表の監督を務めたフース・ヒディンクが今回のチームを率いていたら、組み合わせからいっても韓国は、ベスト4まで行けたのではないかと思う韓国サポーターは多い。
■パク・チソンが日本にもたらしたもの
一方の日本を見てみると、本田圭佑の無回転シュートはアジアのサッカー全体をアップグレードさせた。韓国の若い選手や子供たちの間でも、彼が見せた無回転シュートへの熱望は高まるだろう。
結果的に、W杯前に行われた「日韓戦」は日本に大きな恩恵をもたらしたのではないだろうか。試合に負けた日本のサポーターが「パク・チソンを生でみられてよかった」と自嘲的に話していたように、パク・チソンの存在は日本代表にとっても大きかった。
岡田監督はW杯での戦い方について、豊富な運動量に裏打ちされた「ハエ」のようなディフェンスで相手にプレッシャーをかけたいと話した。これは、世界の舞台で結果を残すパクを意識したものといえるだろう。3つの心臓をもつといわれ、豊富な運動量で相手のキープレーヤーを困らせるパクのあだ名は「モスキート(蚊)」だ。
豊富な運動量、献身的な動き、頭脳的なプレーを通じて個人技とフィジカルの劣勢をカバーし、「目に見えない」活躍を通じてチームの勝利に貢献してきたパク。彼はまさにアジアを代表するサッカー選手である。だが私の印象では、彼のよさをより高く評価しているのは、韓国よりも日本のサッカー関係者やファンのように思う。それは、もちろん彼が元Jリーガーだということも大きいだろうが、それだけではなさそうだ。
日本では、先に挙げたパクの地味な持ち味が高く評価されているのだ。そして、そうした特長を持つパクを、世界で通用するアジア人プレーヤーのモデルとして見ているのだ。
■日韓関係は宿敵からライバルへ
ここで韓国と日本が互いに切磋琢磨し、ともに高め合う関係から生まれる「韓日流」の形が見えてくる。日本の技術力と柔軟さに、韓国の運動量とタフな精神力がミックスすれば、世界基準に達することができるのだ。それを今実現しているのが、パク・チソンであり、イ・チョンヨンであり、本田圭佑なのだ。
中田英寿が先陣を切り、パク・チソンがアップグレードさせたアジアのサッカー。この進化を止めないためにも、日韓がアジアを引っ張っていくのだ。以前、キム・ヨナと浅田真央の関係についても書いたことがあるが、まさに日韓は「宿敵」の関係を越えて、切磋琢磨できるよきライバルの関係に成熟しつつある。韓国のメディアも、今回の日本代表の戦い方に学ぶべきとの声を挙げた。
そのためにまずは、日韓戦を定期的にやるといい。祝祭にしてしまうのだ。そこに北朝鮮を加えてもいい。北朝鮮代表チョン・テセの涙も、個人的には今大会最大のハイライトだった。
アジア・チャンピオンズリーグで常に高いレベルでしのぎを削っているJリーグとKリーグ。いっそ、プロ野球のセパ交流試合のように、公式の交流試合を組み込んでしまうのはどうだろう。
実は現在、僕は『「韓流」と「日流」――文化から読み解く「日韓新時代」』(NHK出版)というタイトルの本の執筆の大詰めにさしかかっているのだが、今回のW杯の結果も、この本の趣旨と見事に合致している。やはり日本と韓国のフュージョンとコラボを通じた「日韓流」こそ、新たな時代を作ると提言したい。
僕の執筆意欲まで後押ししてくれた韓国代表とSAMURAI BLUEよ、見事なアシストをどうもありがとう! 次はベスト8行きましょうよ!
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