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コラム
瀧口範子@シリコンバレーJournal
アップル、ユーザー不在のアプリ内課金で競合潰し
アップルが、アプリ内課金ルールを強化し始め、電子書籍サイトを中心にアプリを変更する動きが起こっている。
アプリ内課金とは、アップルのアップストアからダウンロードしたアプリを利用する場合、コンテンツの支払いもそのアプリを経由しなければならないという仕組み。たとえば、iPhoneやiPadにダウンロードしたゲームを利用していて、追加機能が欲しくなったとか、ゲームで使う小物を買い足したくなったといった場合、そのアプリの中で購入ボタンを押せば支払いまで完了するようになっている。
アプリを利用しているユーザーならば、クリックひとつで買い足しができるので、便利なことこの上ない。アップストアの売り上げは、今年29億ドルを超えるものと予測され(iSuppli予想による)、昨年から63.4%も伸びるほどの繁盛ぶりなのもうなずける。アップルにとっても大きな収入源だ。
ところが、このアプリの実態は今年2月に予想もしないかたちで明らかになった。ソニーが、自社の電子書籍リーダーのアプリをアップルに申請したところ、アプリ内課金機能がないとの理由で一蹴されたのだ。
電子書籍ストアは、さまざまなデバイス用にアプリを開発している。アマゾンならば、キンドル・リーダーをiPhoneやiPad、アンドロイド・デバイス向けに提供している。大手書店チェーンのバーンズ&ノーブルも、自社のヌック・リーダーを同じように異なったデバイスで広く使えるように、種々のアプリを開発している。いずれも、キンドルやヌックといった自社製のデバイスもあるが、共通した読み心地を他のデバイス上でも提供しようと、そうしたアプリを開発してきたのだ。
もちろん、そうしたアプリにはコンテンツ、つまり電子書籍を買い足すボタンもついていた。巧みなことに、キンドルやヌックのアプリでは、購入ボタンを押すと自社のウェブページに飛び、そこからコンテンツを買えるようになっていた。アップルはアプリ内課金で入ってくる収入の30%を徴収することになっているのだが、両社ともにそれを回避するために販売機能をアプリから外に出し、自社の販売サイトへユーザーを誘っていたのである。ソニーも同じしくみでアプリを作り、アップルのデバイス上に並ぼうとしただけだった。
そのソニーが閉め出しをくらって、電子書籍好きの間では動揺が走った。キンドルやヌックも、いずれも同じ目に遭うのか、と。ところが、しばらくは何も起こらなかったのである。ただし、アップルがずっとそのまま放っておくわけはない。ユーザーの少ないマイナーなソニー・リーダーを見せしめにして、いずれ同じことをメジャーなキンドルやヌックに向けてやるだろうことは、皆想像がついていた。
それが今回起こったことだ。その結果、それぞれのアプリから購入ボタンが消えてしまった。たとえばiPad上のキンドル・リーダーで読書していて、新しい本が買いたくなったとしよう。ユーザーは新たにブラウザを立ち上げ、アマゾンのページを呼び出して、そこから買うしかない。今回の適用を受けて、アマゾンは「キンドルのページをブックマークしておかれると、便利です」とユーザーにさらりとアピールしている。
いずれにしても、めんどうな手順が増えるのだが、それこそアップルの狙うところ。めんどうが重なって、ユーザーがいずれキンドルを捨て去り、自社の電子書籍サイト、iBookstoreで購入してくれることを願っているのだ。
それぞれの言い分はあるだろう。電子書籍リーダー側にとっては、アプリ内課金は痛い支出である。もともとアメリカの電子書籍は激安価格で、そこから販売サイトが手にするのは28%程度だ。たとえば、13.99ドルの書籍ならば、アマゾンに入るのは3.9ドルほど。そこから30%が引かれてしまう。これは、ゲーム内で売っているバーチャルな小物よりも薄利かもしれない。グーグルの電子書籍ストアGoogle eBooksなどはここ数日、アップストアから消えたり、再出現したりしている。反対に、アップルには軒を貸しているという論理もあるだろう。
だが、明らかなのは、これはユーザーにとっては実に迷惑な動きだということだ。相互乗り入れのアプリが開発されて、世の中がますます便利になってきたと思っていたところが、すっかり逆戻りである。企業の縄張り争いが、ユーザーを無視したところで起こっているのだ。
そしてもっと重要なのは、「夢のデバイス」の一部はデジタル世界を切り開く万能のツールではない可能性もあるということだ。これは、ちょっと大げさかもしれない。だが、とくにiPhoneやiPadのようなデバイスには、周りを囲む壁が多い。これらは完全にモバイルなコンピュータと賞賛されているのだが、実はちょっと違った発展をしている。決して同じものだと勘違いしてはならない。
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