コラム
酒井啓子中東徒然日記
ノルウェーのリベンジ? オバマ受賞
先々週、旧ユーゴ諸国訪問記を連載で、と予告したのだが、オバマ大統領ノーベル平和賞受賞!のびっくりニュースが飛び込んできたので、今週はその話に絡んで、少し雑感を。
就任9ヶ月でまだ具体的な成果のない新人大統領が受賞したのは、やってきたことに対してではなくその公約に評価が集まったからだ、という指摘は、まさにそのとおりだろう。国内の反発や現実的判断に負けずに公約どおり頑張りなさい、というサポートを与えるとともに、公約をトーンダウンさせないようにという、国際社会からのプレッシャーが賞の重みとなって米国大統領に圧し掛かる。
この外からのサポートが、しばしば受賞者を苦境に追いやる。中東問題を巡っては、1978年、米キャンプ・デービッドで和平交渉に臨んだエジプトのサダト大統領とベギン・イスラエル首相が受賞したが、サダトは受賞3年後に暗殺された。国際社会にとって「和平の推進」と見えたことは、現地では「裏切り」に映ったのだ。1994年には、その前年パレスチナの暫定自治を定めたオスロ合意を褒め称えて、イスラエルのラビン首相、ペレス外相とアラファート・パレスチナ自治評議会議長が受賞したが、ラビンは翌年国内の宗教右派に暗殺されたし、ペレス、アラファートはその後和平の意気込みはどこへやら、2000年にはオスロ合意は完全に頓挫して、和平合意以前より対立は悪化している。ノルウェーが準備したオスロ合意で、ノルウェー・ノーベル委員会が決定して賞を与えたのに、この和平交渉のさんざんな結果は、ノルウェーにとってはさぞ悔しいことに違いない。
さて、今回受賞のオバマ大統領は、中東問題でも果敢に和平の道を提示している。6月にエジプトのカイロで「イスラーム世界との和解」を掲げて演説した際、パレスチナ問題で争点となっているイスラエルの占領地への入植について、新規入植に「ノー」を叩き付けた。本来占領地を自国領土のように扱い、自国民を住まわせることは、国際法に反している。
オバマ演説は、とりあえず新たな入植地の建設を止めることができれば、和平への活路が開けるかも、との期待を生んだ。演説後に行われた世論調査では、パレスチナ人の対米評価が高まっている。だがこの9月、パレスチナ・イスラエル・米の三者会談では、早くも米国側が、新規入植も仕方ないかも、的なニュアンスをかもし出した。
米国現職大統領のノーベル賞受賞は、再び和平推進の契機になるかどうか。かずかずの和平への道筋を閉ざしたブッシュ政権の亡霊に、平和外交大国ノルウェーがリベンジしているように、見える。
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