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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
「日本未来の党」でよみがえる55年体制
滋賀県の嘉田由紀子知事を代表とする「日本未来の党」が発足した。嘉田氏が設立を表明した27日に、小沢一郎氏の「国民の生活が第一」が解党して60人が合流したほか、亀井静香氏の「減税日本・反TPP・脱原発を実現する党」などが合流し、所属国会議員は73人。民主・自民に次ぐ第3勢力になった。
しかしその看板の「卒原発」は、他の野党がそろって主張している「脱原発」と変わらない。嘉田氏は知事のままで、何のために国政選挙に新党を立ち上げたのかよくわからない。小沢氏がクリーンなイメージの嘉田氏を利用したのではないかという疑惑がぬぐえない。彼女も「9月に小沢氏から接触があった」と認めている。
1993年、小沢氏は自民党を離党して新生党を結成し、細川護煕首相を中心とする非自民連立政権をつくった。このときの彼のねらいは、自民党の長期政権に対して、非武装中立などの空想的な政策を掲げて「何でも反対」する社会党などが対立するだけで政権交代のできない「55年体制」を変えることだった。細川政権は小選挙区制を実現したが、その他はほとんど何もできないまま総辞職し、非自民連立政権は1年足らずで瓦解した。
そのあと続いた政党の離合集散の中心にいたのは、つねに小沢氏だった。それも自由党のころまでは自民党より右の保守主義を打ち出していたのに、民主党に合流してからは左に舵を切り、消費税の増税に反対するなど、昔の社会党に似た路線に傾斜していった。そして党内の主導権が握れないとみると集団離党し、その総仕上げが今度の未来の党だ。
これは、かつて小沢氏がつぶそうとした社会党と同じである。約70議席というのも、細川政権のときの社会党と同じだ。民主党は100議席以下に激減し、維新の会なども数十議席にとどまると予想されているので、このままでは自民・公明中心の与党に対して万年野党がぶら下がる55年体制が復活するおそれが強い。
未来の党の基本政策は「活女性、子ども」や「守暮らし」などの抽象的なスローガンが並び、反TPP(環太平洋パートナーシップ)、反増税などの「何でも反対」党だ。「子ども一人当たり中学卒業まで年間31万2000円の手当を支給する」というのは、2009年の総選挙で民主党が掲げた「毎月2万6000円の子ども手当」と金額まで同じだ。その財源として「行政のムダを徹底的になくす」とか「特別会計の全面見直し」などの空手形が並んでいるのも同じである。
何でも反対するだけで積極的な政策を掲げない未来の党が発しているメッセージは「痛みをともなう改革を拒否して現状を維持しよう」ということだ。これは合理的である。未来の党が政権を取る可能性はないので、いやな政策を掲げる必要はないのだ。誰でも原発はいやだし、税金は安いほうがいい。自由貿易や競争なしでのんびり暮らせるなら、そのほうがいい。社民党が「未来の党に合流したい」というのは当然である。
このように実現可能性を考えないできれいごとを並べる万年野党が政権交代の緊張感をなくし、自民党の長期政権を許したと批判していた小沢氏が、「第二の社会党」を再建しているのは皮肉である。彼にとって「政治改革」は、竹下派の跡目争いに敗れて党を割るためのスローガンにすぎなかったのだろう。今度は「卒原発」というスローガンを掲げ、かつて細川氏をみこしとしてかついだように嘉田氏をかつぐわけだ。
他方、政権を奪回すると予想されている自民党は、TPPにも増税にも原発にも曖昧な態度をとり、インフレ目標などの無意味な政策を掲げている。農協などの既得権に配慮して政策は官僚に丸投げし、現状を維持しようという点では未来の党と同じだ。両方の党に共通するのは、今まで日本が築いてきた富を食いつぶし、問題をすべて先送りしようという現状維持の欲望である。
これは国民の気分にフィットしているのだろう。抜本改革を掲げた民主党政権があえなく瓦解し、政治は変わらないというあきらめが国民の中に定着してしまった。野党が美辞麗句を並べて国民の不満を「ガス抜き」し、与党がそれをつまみ食いして地元に利益誘導する55年体制は、それなりによくできていた。
あと5年ぐらいは、このまま借金を重ねて生き延びることは可能だろう。その後のことはわからないが、政治家にとっては今度の選挙で生き残ることが至上命令だ。こういうアンシャン・レジーム(旧体制)を変えようとしたはずの小沢氏が挫折し、現状維持に回帰した今は、20年前ほどの改革の可能性も失われたように見える。
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