御厨 國分さんがさっき、五百旗頭さんはお子さんや弟子に対抗心を持っていると言われたでしょう。まさにそういう台詞を僕も聞いた覚えがあります。
彼はテニスをやるでしょう。近所のご婦人方を時々教えたりしていた。あるときテニスコートに行ったら、ちょうど孫のアレン君も来ていた。
ご婦人方は普段なら「五百旗頭先生」と自分のところに来るのに、このときばかりは「アレンちゃん、アレンちゃん」と言って自分のところに来ない。「これはいかん。次からは自分のところに来るように、もっとテニスを練習しようと思った」と言うんだ。相手は孫ですよ(笑)。
國分 テニスでは同じような経験があります。以前、軽井沢で、五百旗頭先生と私がダブルスを組み、天皇・皇后両陛下(現在の上皇・上皇后両陛下)のテニスのお相手をしたんです。五百旗頭先生は両陛下に対してドロップショットを打つんですよ。
一同 (笑)
國分 そうしたら、たぶん軽井沢のそのテニスクラブの方だと思うんですけど、ラインズマンが五百旗頭先生に「もっと上品に」と言ったんです(笑)。それでもまたやるんです、何回も。
そうすると、陛下がダーッと走ってきて拾うわけですね。テニスにあまり心得がなく小心者の私はまずいんじゃないかと思うんだけど、五百旗頭先生は勝負にこだわるんです。私がダメなのもあってか勝負にこだわるのと、もう1つは、手を抜くことが相手に対して失礼になると思うんでしょうね。
御厨 そう、そう。そういうところがある。
蒲島 私もそう思いました。実は2006年、五百旗頭先生がちょうど防衛大学校長に就任された夏、東大法学部に私はまだ勤務していて、両陛下との皇居での夕食会があったので五百旗頭さんをお誘いしたんです。両陛下は初めて五百旗頭さんにお会いになって、とても気が合われたのね。すぐに深い信頼を寄せられたんです。
その後、私は何回もご一緒したけど、相手が陛下だからということで五百旗頭さんが特別な対応や気遣いをするのを見たことがない。ましてやテニスで手を抜くなんて、失礼になると当然思っただろうし、両陛下もそれは望まれなかったでしょう。
國分 陛下であろうと孫であろうと、常に真剣勝負で対等、区別なしということなんですね。だからこそ信頼も深まり、好かれもしたのでしょう。
御厨 五百旗頭さんについて語ろうとすると、復興会議のメンバーにもとことんつき合う姿勢とか、何があっても絶対に引かない信念や使命感を抜きには語れない。
僕は、その強さは信仰から来ているのではないかと感じましたし、実際に彼に言いもしました。「先生、あなたはカトリック信者でしょう。根っこにそれがあるのではないですか」と。あの五百旗頭家は有名ですからね。
そうしたら、「そうかなあ。しかし、8人きょうだいのうち、信者になっても全然信仰しない奴が3人いて、そっちの道に入っちゃって抜けられなくなったのが3人いて、俺はその真ん中だからな」と言っていました。