アステイオン

インタビュー

布製マスクの「製造過程」になぜメスを入れたのか?...田中弥生・会計検査院長に聞く「コロナ対策の事後検証」

2024年12月18日(水)10時50分
田中弥生 + 土居丈朗(構成:髙橋涼太朗)

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このインタビューは2024年7月に会計検査院で行われた。クレジットのない写真はすべて河内彩・撮影

田中 現場に負担をかけないために、できる限り中小規模の病院への実地検査は控えました。しかし、都道府県の担当部局は情報収集や医療機関間連携で重要な調整機能を果たしていたため、実地検査に協力してもらいました。

実際に確保病床と休止病床に対して1日当たり最大43万6000円の補助金が支払われました。さらに、コロナ患者を実際に受け入れて稼働した際には、看護師の人件費等として、1ベッド当たり1500万円が支給されました。独立行政法人国立病院機構には、計1800億円の補助金が投入されています。

都道府県にヒアリングを行なったところ、次にいつ患者が増えるか分からない中で病床を減らし、その後、感染が拡大した際に病院にベッドを確保してほしいと再度頼むことが難しい、と。その結果、病床は増え続けたのですが、事態がどう動くか分からない中でこれを責めることはできません。

また、検査対象となった補助金交付対象の病院の病床利用率は全国平均で約60%でした。しかし、中には病床利用率が50%未満の病院もありました。

土居 補助金を受けて病床を確保した割には、病床利用率が50%未満という病院があったというところが、まさに「幽霊病床」と呼ばれた所以ですね。補助金をもらうだけもらいながら患者を受け入れられなかったということもありえますよね。

田中 その理由についてもアンケートを取ったところ、そもそもコロナ患者が来なかったり、病院内でクラスターが発生したり、専門病院とのミスマッチが原因で受け入れができなかったという回答がありました。

土居 そうした事情は、外部の専門家に報告を読んでいただき、さらに実態を解明してもらうことを期待したいところですね。

田中 我々はあくまで国の収入と支出を検査する機関であり、政策の妥当性そのものを評価する立場になく、アンケート調査以上のことはしていません。しかし、この報告をご専門の先生方に見ていただければ、これからの医療体制の在り方を検討していただく1つの情報源になるのではないかと思っています。

※第2回:新型コロナ・病床に対する補助金「1日当たり最大43万6000円」は妥当だったのか?...診療報酬制度とのミスマッチ に続く


【注】
(1) 会計検査院の検査官三名は、国会の同意を経て、内閣が任命し天皇が認証する。院長は、検査官の中から互選され内閣が任命する。
(2) 令和二年度決算検査報告 目次
(3) 令和三年度決算検査報告 目次
(4) 令和四年度決算検査報告 目次


田中弥生(Yayoi Tanaka)
1960年生まれ。2002年大阪大学大学院国際公共政策研究科で博士号取得。笹川平和財団研究員、国際協力銀行プロジェクト開発部参事役、独立行政法人大学改革支援・学位授与機構教授などを経て、2019年9月に会計検査院検査官、2024年1月に会計検査院長に就任。専門は非営利組織論、評価論。著書に『ドラッカー 2020年の日本人への「預言」』(集英社)、『NPOと社会をつなぐ──NPOを変える評価とインターメディアリ』(東京大学出版会)など。

土居丈朗(Takero Doi)
慶應義塾大学経済学部教授、アステイオン編集委員。1970 年生まれ。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、現職。専門は財政学、経済政策論など。著書に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社、日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学(第2版)』 (日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)、『平成の経済政策はどう決められたか』(中央公論新社)などがある。


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