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インタビュー

布製マスクの「製造過程」になぜメスを入れたのか?...田中弥生・会計検査院長に聞く「コロナ対策の事後検証」

2024年12月18日(水)10時50分
田中弥生 + 土居丈朗(構成:髙橋涼太朗)

田中 それには、霞が関の体力不足も影響しています。実はGoToキャンペーン事業では、イート事業を実施する農林水産省が144件のすべての契約事務を自力で行おうとしました。GoToEatキャンペーン準備室に配置された職員を9人から最大20人に増員して対応しましたが、検査時点で半分以上にあたる85件の契約事務が完了していませんでした。

この事例は、トランザクションコスト(取引費用)の観点からも、すべての業務を省庁が自力で行なうことの難しさを示しています。ですから、委託そのものが悪いわけではないということです。

土居 なるほど、そういった背景があるのですね。どういう形で民間に財政支出をするかはケース・バイ・ケースですが、ルーズに予算を出してはいけないというのが、今回の新型コロナ対策の関連事業からの教訓ですね。

コロナ病床確保事業について

土居 コロナ患者を受け入れる病床として確保していたのに使用されなかった、いわゆる「幽霊病床」も話題になりました。

そもそも、医療機関が得る診療報酬は医療行為に対する報酬であり、患者がおらず空床だと診療報酬が支払えないことから、診療報酬とは別に補助金という形で、コロナ病床として確保した医療機関に対して病床確保料を支払ったわけです。

病床確保料に関する検査も会計検査院は行なったと聞きました。具体的にどのような形で検査をしたのでしょうか。

田中 コロナ病床確保事業には、補助対象期間にコロナ患者等の入院受入体制が整い「即応病床」として確保された病床(以下、「確保病床」)と、コロナ患者等を受け入れるために看護職員等が従来配置されていた病棟を閉鎖したり、多床室の一部の病床を空床としたりしたために休止した「休止病床」の2種類があります。

コロナ患者用の病床を確保すると、他の患者を受け入れられなくなるため、その間に稼働できない病床にも補助金が出されました。

まず補助金の財源や制度を確認し、その上で執行状況を調べました。病床確保事業の対象とされた病院や医療機関は全国で3483施設ありましたが、そのうち計496の大規模医療機関(国立大学病院や独立行政法人が設置する医療機関など)を中心に検査し、随時報告という形で2023年1月に報告をまとめました。

しかし、当時、検査対象となった市区町村の医療関係の部局や民間のクリニックは僅かで、主たる実地検査の対象に含まれていません。

土居 実地検査の対象に含めなかったのは、要請したけれども受け入れてもらえなかったということでしょうか。

田中 市区町村については特に配慮し、コロナワクチン接種が始まった年には実地検査を控えました。また、2021年には全国知事会から会計検査を控えてほしいとの提言もありました。

土居 それでは自治体の都合で「来てほしくない」と断っているように見えますね。国費を使っている以上、会計検査を受けるのもやむを得ないと思ってくれないのでしょうか。

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