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布製マスク配布事業、持続化給付金事業、病床確保事業、巨額の予備費など、新型コロナ対策には財政支出が多額に投じられたが、その財政運営に会計検査院がメスを入れたことが話題になった。
その一端について、田中弥生・会計検査院長に本誌編集委員の土居丈朗・慶應義塾大学教授が聞いた。『アステイオン』101号の特集「コロナ禍を経済学で検証する」より「コロナ対策の『事後検証』――田中会計検査院長が語る」を3回に分けて転載。本編は第1回目。
土居 2019年度末頃のコロナ禍初期から新型コロナ対策が財政的にも注目され始めていましたが、当時は検査官(注1)であられて、新型コロナ対策に関して、会計検査院として何らかの対応が必要になるという予兆はあったのでしょうか。
田中 会計検査院は憲法90条に基づき、独立した立場から国の財政を監督する機関です。きちんと検査をして、次のパンデミックや災害のために教訓として歴史に残る記録を残さなければならないということを当初から議論していました。
土居 混乱状態のなかで記録を残すことがすでに議論されていたとは驚きです。しかし、これから何が起こるかも分からないなかでは難しかったのではないでしょうか。
田中 まずはそもそも新型コロナ対策に対して、何らかの指摘をするかどうかについて議論しました。コロナ禍が始まったばかりの試行錯誤している段階で「あれもこれも駄目」とは言えないだろう、と。ですから、初年度は見守ることになりました。
2021年秋に公表した令和2年度(2020年度)決算検査報告(注2)の第4章に「特定検査状況(特定検査対象に関する検査状況)」という項目があります。
これは「状況を見守ること」に関する項目で、「GoToキャンペーン事業」や「持続化給付金事業」などを入れました。翌年にはある程度状況が見え、判断ができるだろう。もし何かを指摘するのであれば、2022年(令和3年度決算検査報告)(注3)以降になるであろうことは幹部職員らとも当初から議論していました。
土居 新型コロナ対策の中では、最初に布製マスク配布事業が話題になりました。これについては検査官、または会計検査院としてどのように動いたのでしょうか。
田中 布製マスクの良し悪し、配布の是非については会計検査院としてジャッジしないことにしました。むしろ、どれほどの費用が使われたのか、製造過程や契約で問題がなかったか、配布のプロセスに課題がなかったか、そして在庫の管理がどうなっているかに注目しました。その中で法的またはシステム上の問題がある場合に指摘することにしました。
会計検査院は毎年、国のすべての収入と支出の決算を検査しますが、政策そのものを頭から評価することはしません。また、布製マスク配布事業は「特定検査状況」として記され、少し緩やかな所見になりました。
土居 会計検査院は正確性、合規性、経済性、効率性、有効性という5つの観点を掲げて検査を行なっている。実に会計検査院らしい目線で布製マスク配布事業の分析と検査をブレずにされたという印象です。この件については、何か反響はありましたか。
vol.101
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