アステイオン

座談会

「21世紀の首都圏はがらんどう」...サントリーホールが生まれた1980年代を振り返る

2024年10月09日(水)10時40分
片山杜秀 + 三浦雅士 + 田所昌幸(構成:置塩 文)

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『アステイオン』創刊号に掲載されたサントリーホールの広告

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片山 私は、70年代から東京文化会館でバレエを観ていました。東京で踊りができるホールと言えば、新宿の東京厚生年金会館がありましたね。

70年代頃の東京には、芝、五反田という比較的便利なところにメルパルクホールやゆうぽうとホールという、千何百もの座席を持つ市民会館的な多目的ホールでテレビの公開番組からオーケストラのコンサート、バレエまで何にでも利用できる、いわゆる「ホール文化」が機能していました。

そこから日本が成熟していき、ザ・シンフォニーホールができ、サントリーホールができ、オーチャードホールや東京芸術劇場、そして新国立劇場も90年代に入ってできます。新しいホールは供給過剰なほどで、古いホールと相俟って、80年代、90年代でひととおり整いました。

三浦 音楽好きはコンサートホールのほうがオペラハウスより上だと思い込んでいるけれど、それはドイツ古典音楽が最高だというドイツの英仏コンプレクスから生まれた迷信にすぎない。その迷信のために似たようなコンサートホールをいっぱいつくってしまった。だから日本にはオペラハウスがほとんど存在しない。新国立劇場にしても民間にはできるだけ使わせないようにしている。

それに見合っているのが建築家で、日本の建築家は建てるだけで舞踊はもちろん音楽も鑑賞したことがない。音響効果ばかり研究していて、ホールに入ったときの雰囲気まで研究する建築家は非常に少ない。工学部的な発想ばかりなんです。

しかも、片山さんに匹敵するような、日本の伝統音楽に詳しい音楽評論家はいるのかという問題がある。国立劇場は主に歌舞伎を上演していたけれど、本当は日本舞踊向きです。逆に歌舞伎座は日本舞踊に集中した演し物はほとんどやっていない。

その国立劇場を2023年の秋に「ちょっと閉めます」ということですが、再開場まで10年と言われている。代わりに台東区立の浅草公会堂、中央区立の日本橋公会堂があるとは言うけれど、小さい。それで飢えを満たせるのか。そういうことを日本音楽及び日本舞踊の研究家たちもファンも何も言いません。お上にはひたすら弱い。

片山 確かにメルパルク、ゆうぽうと、厚生年金などの古いホールは閉めて建て替えられずに終わってしまった。国立劇場は建て直し。オーチャードホールのあるBunkamuraも長期間閉めているでしょう。神奈川県民ホールは閉館してしまう。東京文化会館も長く改修が入ると聞きます。

21世紀の首都圏はこれではがらんどうみたいなものです。

三浦 そう、がらんどう。それが火急の問題としてあります。

86年の段階でも満足ではなかったのに、いったいどうするつもりなのか、と。古いホールを潰して代わりを建てないのは経営が建前上、民間になったから。日本の官僚は志が低いし趣味も低俗すぎる。しかも、それを批判すべきジャーナリズムが機能していない。

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