野嶋 1988年の李登輝時代から中国国家の色彩を弱め、台湾を自らの郷土とする「台湾化」に向けて歩みを進めていました。
しかし、習近平体制は、その台湾の脱中国プロセスを止め、中華人民共和国の体制の中に押し込もうとしています。
軍事的な威圧、経済的な圧力を含めたハードパワーで止めようとする。この「中華の世界」に台湾の人々は恐怖を感じていると思います。
岡本 周りが中国をどう見ているかと同様に、中国が周りをどう見るかということにも注目しなければいけないと思います。
しかしながら周囲、とりわけ日本人が今後、中国をめぐる問題をどう考えるかということは大切です。どういった立ち位置を築き、どう見ていくのかについて、お考えをお聞かせいただけますでしょうか。
阿南 難しい問題ですが、中華のイメージそのものは、学習することによってある程度生まれてくると思います。
私は中国に関する予備知識がないままに親の仕事で1980年代に数年間中国に住むこととなりました。当時の中国は正真正銘の途上国で、民衆は生きていくのがやっとという時代です。子供ながらに「遅れたところに来てしまった......」と途方に暮れたことを記憶しています。
しかし、現地で『三国志』を読み始めると、「なるほど、ここが曹操の宮殿だったのか」と目の前のただの原っぱに幻の王宮が浮かび上がってくるようになるわけです(笑)。
岡本 なるほど。確かに今の中国が嫌いでも、教養の骨格部分に中国の歴史や文化、または古典から吸収していることを多くの日本人は否定できないですよね。
阿南 はい。我々の世代であれば『西遊記』や『三国志』、『水滸伝』、今の世代では『キングダム』など、中華としてイメージされるような中国の歴史や物語を文化として消費し続けています。
だからこそ、これだけ国家間の関係が悪くなっても、中国に対しての一定のリスペクトがあるのだと思います。
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