Seiya Tabuchi-iStock
サントリー文化財団が編集する論壇誌『アステイオン』では、いわゆる理系・文系とが相互の研究室を訪問し、その源流を辿ることによって、それぞれの文化の融解を狙う連載企画「超えるのではなく辿る、二つの文化」を掲載している。
98号本誌掲載「納得の文系に説得の理系」のスピンオフとして、研究室の訪問レポートを写真とともに紹介する。第4回目の訪問先はプラダン・ゴウランガ・チャラン氏(国際日本文化研究センタープロジェクト研究員(当時))。
※第3回「植物の土壌」研究者を訪ねた驚き──けいはんなで文系と理系を考える から続く。
理系では近年、論文発表の際、利益相反(conflict of interest; COI)について表明しなくてはならないことが増えている。
例えば企業の理系研究者は、所属先の企業に不利益になるような研究成果は発表しないと見なされがちのため、研究成果の客観性を担保したい場合に、「COIはありません」と表明する。
自分に不利になるようなデータは企業からは公開されない、という点は変わらないが、自分の所属を公開することが自分の立場を明らかにすることと同義となる。
一方、人文系研究者の場合、研究結果が自分の利益にどの程度関係するのかを明らかにし、旗印を掲げることはどれほど一般的なのだろうか。これまで書いた書籍や論文を示したとして、信用に足るCOI表明になるのだろうか。
もしかしたらそのあたりの判断は、人文系では専ら読み手側の感度と知識に委ねられている、ということかもしれない。
一昨年(2021年)から、「超えるのではなく辿る、二つの文化」と題して、文系と理系の研究者が意見を交わしてきた。研究とは? という果てしない、答えのない問い。そして研究に対する姿勢。その両方を、普段意識しない妙に嫌な角度から、改めて考えさせられる研究会であった。
今回、この問いを一緒に考えているインド出身のプラダン・ゴウランガ・チャランは、比較文化研究者である。
方丈記という日本の中世文学のテキストをたたき台にして、日本あるいは中世という枠組みを超えた、人として大事にしたい価値観のエッセンスを抽出している。
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