アステイオン

歴史学

日本人が無関心だった、中国周辺国・地域への「中華」の拡散

2023年05月19日(金)08時04分
岡本隆司(京都府立大学文学部教授)
地球儀

zennie-iStock


<これまで「中華」と「中国」をどのように論じてきたのか、これからどう語ることができるのか。論壇誌『アステイオン』98号の特集「中華の拡散、中華の深化──「中国の夢」の歴史的展望」の巻頭言「「中華」の拡散・深化と「夢」みる中国」より全文転載>


昨年2月24日に勃発したウクライナ「戦争」を契機として、現代世界はけだし何十年かに一度の歴史的な転換の真っ只中にある。

ロシアと欧米との相容れない対立構図が露呈、西側の結束は近年まれにみる緊密さを加えた。わが日本も旗幟を鮮明にし、欧米と結束同調している。

しかし西側に与しない国も少なくない。インド・中国という人口の第1、2位を争う大国すら、そうである。いわゆる「グローバル・サウス」は、独自の立場・路線を模索して久しい。

その間に周知のとおり、内外で世界の今後を論じるおびただしい論考や分析が公になった。関連の報道・議論も巷に溢れる。だからといって、それで全てがわかると、誰が考えるだろうか。

1年以上つづくウクライナ戦争は、まだ終わりが見えない。その影響と帰趨がやはり世界・欧米の最大関心事ではあり、その西側と日本も足並みをそろえる。

それでも極東に暮らすわれわれは、ロシアに劣らず中国を無視するわけにはいかない。「同盟」相手のアメリカと「対立」する関係にあり、ウクライナに侵攻したロシアと親密で、なおかつ、それ以上に謎の大国だからである。

当初ロシアの「盟友」たる立場を示した中国は、動きがやはり目まぐるしい。昨年の10月下旬に共産党大会を終え、習近平体制も異例の3期目に入った。

これまで固守してきたゼロ・コロナ政策を事実上撤廃したのも、大きな転換である。この3月に開催をみた全国人民代表大会を経て、新たな政権体制も固まった。

目前にあるそうした中国は、時空として現代・現状ばかりではない。時系列がまず然り、「現代」とは過去を経過して、未来に向かう時点の謂(いい)である。中国の最新事情といっても、その範囲はつねに振幅をもって考えなくてはならない。

空間もそうである。「現状」とは中国国内の範囲だけでは成り立たない。接し関わる多くの国々・地域を含んだ動態である。当事者は決して「一衣帯水」の日本にとどまらない。

その習近平体制が呼号を続けるのは、「中華民族」の「一つの中国」である。実はとりたてて目新しい概念ではない。長くとれば100年以上も以前から背負い、となえてきた課題であるとともに、現代・現状も解決をみておらず、なればこそ「夢」と表現せざるをえない段階なのである。

今後「夢」はかなうのか、それとも「夢」まぼろしのまま消えゆくのか。

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