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「ロシアは父、ウクライナは弟、タジキスタンは息子」
筆者はタジキスタン駐在中、ロシアとその他旧ソ連諸国との関係性について、タジキスタン人が半ば自嘲気味にこう言及するのを幾度か耳にした。
「父と子」の関係性に対する「子」の積年の不満は、2022年10月にカザフスタンの首都アスタナで開催された独立国家共同体(CIS)首脳会合における、タジキスタンのラフモン大統領からロシアのプーチン大統領への次の発言から看取される。
「ソ連時代のような宗主国的振る舞いをしてほしくない、中央アジアの小国であっても敬意を払ってほしい」と。公の場でロシアに対する不満を表明するのは異例のことであり、同発言は中央アジア諸国のロシア離れとして日本のメディアでも報じられた。
もっとも、その真意をめぐっては諸説あり、ロシアの苦境を機に投資や援助等を引き出そうとする外交上の駆け引きといった見方も示されている。
しかし、ロシアの家父長的ないし大国主義的な振る舞いに不満や恐れを抱く人々がいる一方で、概して中央アジアでは、ロシアへ親近感を持つ人々も少なくない。また、現在の格差社会を嘆き、ソ連への郷愁の念を口にする者もいるのも事実だ。
「アステイオン」97号「特集 ウクライナ戦争──世界の視点から」 では、ウクライナ戦争について、国際政治学、国際経済学、地域研究、歴史学など多様な角度から議論が展開され、示唆に富んだ様々な論点が提示されている。
なかでも、竹森俊平氏のロシア強権主義の原点を経路依存性に求める見方は、比較法、法と開発を研究する筆者の問題意識とも重なり大いに刺激を受けた。
そこで以下では、国際協力実務経験を素材にロシアの「勢力圏」とみなされる中央アジアから見た冷戦終結後の制度変化の素描を通じて、この見方を比較法および法と開発研究の視角から掘り下げてみたい。
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