コラム

高校生に学術論文が書ける? 悠仁さま「トンボ論文」に向けられた「不公平」批判について考える

2023年12月26日(火)19時00分
悠仁さま

秋篠宮家の長男・悠仁さま(2022年8月7日、赤坂御用地) Imperial Household Agency of Japan/Handout via REUTERS

<手厚い議論が展開され、「高校生が初めて書いた論文にしては立派すぎる」感のある悠仁さまの論文。その内容と価値を紹介するとともに、普通の高校生が学術論文を書くことは可能か、発表する機会を得られるかについて考える>

「トンボ好き」で知られる秋篠宮家の長男・悠仁さまは11月22日、自身初となる学術論文を発表しました。タイトルは「赤坂御用地のトンボ相―多様な環境と人の手による維持管理―」で、国立科学博物館が発行する研究報告誌「国立科学博物館研究報告A類(動物学)」に掲載されました。

この「トンボ論文」の著者は3名です。悠仁さまがファースト・オーサー(筆頭筆者)で、元農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)の研究員で宮内庁職員の飯島健氏、トンボの専門家でコレスポンディング・オーサー(責任筆者)である国立科学博物館動物研究部の清拓哉氏が共同研究したものとなっています。

通常、学術論文では、研究や執筆に対して最も貢献度の高い者がファースト・オーサー、論文に関して最終的な責任を持ち、問い合わせに中長期的に応じられる人がコレスポンディング・オーサーになります。たとえば大学院生が研究をまとめて論文を投稿する場合は、本人がファースト・オーサーとなり、コレスポンディング・オーサーは研究室の指導教員が務めることが大半です。

なので、筆者の順番からは「トンボ論文は、悠仁さまが清氏の指導を受けながら主導的な立場で研究を進めた。飯島氏も研究に貢献した」と読み取れます。実際に、一部の報道では「22年に悠仁さまが清氏と面会した際、パソコンでデータを見せながら、御用地に生息するトンボのリストを説明された。その内容に感銘を受けた清氏が、論文作成を提案した」と伝えています。

ところがトンボ論文は、内容そのものよりも「筑波大附属高校2年生で17歳の悠仁さまが、学術論文の筆頭論者になり得るのか」という点に話題が集まっています。進学が近いことから、難関大学の推薦入試を受験する上で大きな実績になるのではないか、普通の高校生は専門家の指導を受けて論文を書いて成果とすることは難しいから不公平なのではないか、などの声も上がっています。

そもそも、トンボ論文はどのような内容なのでしょうか。現在の日本で、高校生が学術論文を書くことは特別なことなのかなどについても考えていきましょう。なお、この論文は誰でもWeb上から入手できます。

研究者でも自由に調査できる場所ではない

悠仁さまのトンボ研究は、2012年から22年にかけて秋篠宮邸のある赤坂御用地内で行われました。池や樹林、防火水槽など、トンボ類が生息する場所を随時調査し、トンボを撮影したり、幼虫を採集・飼育して羽化させたりして種を同定しました。分類した結果、8科38種が確認されました。その中には、東京都区部のレッドデータブック(東京都環境局、23年)で『絶滅危惧IA類』に指定されるオツネントンボやオオイトトンボなど、貴重な品種も含まれていました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story