コラム

「料理をする男性」ほど超加工食品が好き? 日本人と超加工食品の最新事情

2023年12月19日(火)16時15分
超加工食品

がんや死亡率、肥満との関連が欧米を中心に研究されてきた(写真はイメージです) Phairoh chimmi-Shutterstock

<東京大大学院医学系研究科公共健康医学専攻の村上健太郎教授らの研究チームは、日本人成人2232人を対象に、超加工食品の摂取量と食に関する知識や技術、価値観、行動特性との関連に関する調査を実施。女性については、年齢が高く、栄養に関する知識が多く、食の安全性を重視する人ほど摂取量が少ないことが分かった。一方、男性は──>

仕事が忙しいのに賃金はなかなか上がらない現代日本人にとって、「超加工食品」は自炊や外食よりも安価で手軽なカロリー摂取手段として定着しています。

超加工食品とは、複数の食材を工業的に配合して製造された、加工の程度が非常に高い食品のことです。ソーセージや菓子パン、冷凍ピザ、清涼飲料などが代表例とされています。

利便性が高い一方、超加工食品に含まれる成分は脂質やナトリウムが過多となりがちです。さらに、たんぱく質や食物繊維、ビタミン・ミネラル類の含有量が少ないために、そればかりになると食事の質が低下する可能性があるといいます。

近年は欧米を中心に、がんや死亡率、肥満との関連が研究されており、BBCやニューヨーク・タイムズ紙などでも研究結果が報じられるなど、注目されています。けれど日本では、これまでに超加工食品の摂取状況に関する栄養学研究はほとんどなされていませんでした。

今年になって、東京大大学院医学系研究科公共健康医学専攻の村上健太郎教授らの研究チームは、日本人の成人に対して、超加工食品の摂取量と年齢、喫煙状況、食に関する知識や価値観、食事の質などに関する調査結果を相次いで発表しました。

今回は、全国で18~80歳の日本人成人2232人を対象に質問票を使って、超加工食品の摂取量と食に関する知識や技術、価値観、行動特性との関連を調査しました。

その結果、女性では年齢が高く、栄養に関する知識が多く、食の安全性を重視する人ほど超加工食品の摂取量が少ないのに対して、男性では調理技術が高い人ほど超加工商品の摂取量が多いことが分かりました。さらに、男女ともに満腹感を感じやすい人ほど、超加工商品の摂取量が多いという結果も得られました。

研究成果は栄養学分野の国際誌「International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity」に5日付で掲載されました。

これらの結果を聞いて、不思議に思う人もいるかもしれません。研究の詳細と、このような結果になった理由について考えてみましょう。

25の質問で食品選択の価値観を調査

食品の加工度合いによる分類は、ブラジルのサンパウロ大が開発したNOVAや、アメリカのノースカロライナ大チャペルヒル校 (UNC) が開発したシステムがよく使われます。両者は用いる言葉が多少違うものの、カテゴリーの分け方は一致しています。

たとえばUNC方式では、食品は①未加工および最小限の加工、②基本的な加工、③中程度の加工、④高度に加工された、のいずれかに分類されます。①は卵や、玄米、はちみつ、ハーブ、香辛料、野菜、果物など、②は濃縮還元でない無糖の果物ジュース、卵白、全粒粉、油、無塩バター、③は加糖の果物ジュースや野菜ジュース、加糖ヨーグルトなど、④はゼリー、マーガリン、ポテトチップス、ソーセージ、ハム、菓子パン、アルコール飲料、清涼飲料などが例として挙げられています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

MUFG、印ノンバンクに40億ドル以上出資へ=関係

ワールド

訪日客11月は10.4%増、紅葉で好調続く 中国は

ビジネス

日経平均は反発、米雇用統計通過で安心感 AI関連も

ワールド

ブラジル中銀、金利据え置き戦略は適切と現時点で結論
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story