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京大がヒトの「非統合胚モデル」で着床前後の状態を再現 倫理面の懸念にも配慮
チームはまず、ナイーブ型ヒト多能性幹細胞から原始内胚葉に誘導する方法を新たに開発しました。次に、この原始内胚葉と既知の方法で作成したナイーブ型ヒト多能性幹細胞由来のエピブラストを共に誘導すると、4日目には球状の集合体になりました。これは着床前の胚の状態によく似た構造で、研究チームによってバイラミノイドと命名されました。
さらに、ナイーブ型多能性幹細胞から栄養膜細胞に類似した細胞を作り、他の2種の細胞から作られたバイラミノイドと半透過性の膜を隔てて一緒に培養しました。これは、着床期の胚を構成する3種の細胞が膜で物理的に隔てられつつ、同一の環境下で相互作用できる状態です。「非統合胚モデル」と名付けられたこの胚モデルを使うと、9日目にはバイラミノイドの内部に、着床後の胚と同じように様々な細胞が観察されました。それらは各臓器や、生殖細胞のもとになる細胞と類似していました。
「人造人間」を作らないための配慮も
胚モデルを用いると、①本物の胚(受精卵、胎児になりうる胚)の利用では生命倫理上タブー視されていたような改変や破棄を伴う研究のハードルが下がり、②とくにiPS細胞を使えれば大量に同種のものが作れるために、体系的な研究の推進にもつながります。ヒトの発生初期について胚モデルを使って知見が得られれば、不妊や流産、先天性疾患などの原因究明や治療法につながる可能性があります。
また、これまでは着床後の胚を観察すること自体が難しかったため、胚モデルを着床後に相当する時期まで育てれば、妊娠初期に組織や臓器が成長する仕組みを解明するのに役立つと考えられます。
ただし、胚モデルには「科学技術が向上すれば、人造人間の誕生まで行きつくのではないか」という懸念が常にあります。量産が可能なiPS細胞を用いられるとすればなおさらでしょう。
今回の「非統合胚モデル」は、この懸念にも対応しています。身体を形成するバイラミノイドを胎盤になる細胞から切り離して培養しているので、もしバイラミノイドを母体に移植したとしても成長できないからです。
研究のためのヒト胚の培養は、40年ほど前に「14日を超える(あるいは原始線条という構造が現れたら)培養の禁止」というルールが提唱され、日本を含め国際的に広く受け入れられてきました。21年5月には、国際幹細胞学会が14日を超える培養を認める指針を出すなど、ヒト胚の研究には今まさに「規制緩和の波」がきています。しかも、これは受精卵を想定したもので、胚モデルについてはルール作りが追い付いていない状態です。
今回、CiRAで行われた研究は、受精卵を使わない胚モデルで着床前後という生命の発生に最も重要な時期を連続的に再現したとともに、人造人間を作らない配慮が行き届いています。倫理面での社会的要請にも応えやすく、胚モデルの研究者に対しても今後の方向性を示し、利用する研究者にとっても使用しやすい、卓越した研究と言えるでしょう。
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