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ノーベル賞受賞はなくてもスゴかった! 2023年日本人科学者の受賞研究
筑波大国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS) 機構長・教授の柳沢正史氏 出典:文部科学省ホームページ, CC BY 4.0(元画像を一部トリミング)
<クラリベイト引用栄誉賞やウルフ賞の受賞者、さらには英学術誌「ネイチャー」の「ことしの10人」に取り上げられた科学者も。2023年に世界の著名な科学賞を受賞した日本人研究者6名の研究成果を紹介する>
「最近、解明された重要な科学の知見は何だろう」と疑問が湧いたときに、多くの人が参考にするのが「ノーベル賞」の科学3賞(物理学、化学、生理学・医学)でしょう。同時に、科学界の最高栄誉であると認識して、オリンピックで日本人が金メダルを獲得することを願うように「今年こそ日本人がノーベル賞を受賞してほしい」と朗報を待ち望む人も少なくないはずです。
1901年から始まったノーベル賞で、日本人(受賞時に外国籍の者を含む)は2023年までに25名が科学3賞を受賞しています。とりわけ21世紀以降の科学3賞の国別受賞者数を見ると、アメリカに続く世界第2位となっています。
「日本人のノーベル賞受賞ラッシュ」に慣れてしまった人たちには、21年に気候の物理モデリングや温暖化の研究で物理学賞を受賞した真鍋淑郎氏(プリンストン大上席研究員)以来、日本人受賞者が現れないことでがっかりしているかもしれません。
とは言っても、23年も多くの日本人研究者が、素晴らしい研究を成し遂げたり、過去の業績を高く評価されたりしました。今回は、世界的に著名な科学賞の受賞者を中心に、6名の研究成果を紹介します。「2023年の最新科学」を概観しましょう。
1.柳沢正史
筑波大国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS) 機構長・教授
睡眠や覚醒のメカニズムの解明に関する第一人者です。23年9月に「ノーベル賞受賞を予言する賞」とされる「クラリベイト引用栄誉賞」を生理学・医学分野で受賞しました。受賞理由は「睡眠/覚醒の遺伝学的・生理学的研究、および重要な睡眠制御因子としてナルコレプシーの病因にも関与するオレキシンの発見」です。
オレキシンは脳の視床下部で作られる神経伝達物質で、睡眠と覚醒の切り換えを担います。食欲に関与する物質であることが先に分かったので、ギリシャ語で「食欲」を意味するorexisから名付けられました。
発見者の柳沢氏は当時、米テキサス大学でオレキシン産生遺伝子を欠損させたマウスを観察していました。すると、夜行性のマウスが夜に突然眠り込んでしまう「睡眠発作」を繰り返しました。これは、昼間に突然、強い眠気に襲われて眠り込んでしまう「ナルコレプシー」というヒトの睡眠障害と同じ症状でした。
詳しく調べると、オレキシンは覚醒時には覚醒系を活性化し睡眠中枢を抑制する作用を持っていることが分かりました。一方、睡眠時にはオレキシンと覚醒中枢の働きは抑制されます。
現在、オレキシンの働きを抑えることで不眠症を改善する薬が開発されており、14年から日本とアメリカで実用化されています。さらにナルコレプシーの原因にオレキシンの欠乏が関与することが分かったため、治療薬(オレキシン受容体作動薬)の開発も進められています。
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