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「アルツハイマー型認知症は腸内細菌を通じて伝染する」とラット実験で実証される
まずアルツハイマー病の患者69人と認知症ではない人64人から移植用の糞便と血液を採取しました。次に、7日間、抗菌薬を与え続けて元々の腸内細菌を死滅させた11週齢のオスのラット16匹ずつ対して、アルツハイマー病とそうでない人の糞便を溶かした液体を3日間経口投与して、ヒトの腸内細菌の移植を行いました。11週齢のラットを選んだ理由は、成体かつ十分に若いため、老化による影響を避けるためです。
その結果、最初の移植から10日後以降に健康診断や記憶テストを行ったところ、アルツハイマー病患者の腸内細菌を移植したラットには、長期空間記憶の障害や新規認識記憶の著しい低下など認知症と思われる症状が認められました。さらに、重症患者の腸内細菌を移植されたラットほど、記憶障害が重度でした。
その後、神経細胞を特異的に染色するマーカーを使ったり、脳の切片を顕微鏡で観察したりすることで、アルツハイマー病患者の腸内細菌を移植したラットの脳では、海馬での新しい神経細胞の産出や成長が減ってしまっていたことが観察されました。
つまり、患者の糞便移植によって、健康なラットにアルツハイマー病の症状が「伝染する」ことが示唆されました。
減った細菌、増えた細菌
次に研究チームは、アルツハイマー病患者のどの腸内細菌が、若くて健康なラットの脳に影響を与えたのかについて考察しました。
患者の糞便に現れた腸内細菌叢を分析すると、酪酸を産出して腸内の清掃や腸内壁の修復作業を担うクロストリジウム属やコプロコッカス属の腸内細菌が大幅に減少していました。一方、パーキンソン病など様々な病気の発症に関連していると考えられているデスルフォビブリオ属の細菌が増加していました。
そこで研究者たちは、損傷された腸壁が十分に修復されず、デスルフォビブリオ属の細菌から産出された毒素が血管に入り込み、血流に乗って脳に悪影響を及ぼしたという仮説をたてました。実際に、アルツハイマー病患者の血液から取り出された血清を、胎児性のヒト海馬の神経前駆細胞に注ぐと、神経細胞の成長と機能を低下させることが確認されました。
研究を主導したイボンヌ・ノーラン教授は「現在の治療法は、アルツハイマー病患者が認知症を発症して診断されてから行っても遅すぎる可能性があります。症状が発現する前に、認知症の前駆期や初期段階での腸内細菌の役割を理解することで、新たな治療法の開発、さらには個別化された介入への道が開かれる可能性があります」と語っています。
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