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1万5千年前、西欧の葬儀では死者が「食べられていた」...その証拠とは?
研究チームは、さらに人骨の遺伝情報の詳細が入手できる8つの遺跡について、住民の遺伝子の分析を行いました。すると、すべてマドレーヌ文化の遺跡と見られていましたが、マドレーヌ文化を持つマグダレニア人に関連する「GoyetQ2」遺伝子を継承している住民から構成される遺跡と、同時期に主に南東ヨーロッパで繁栄したエピグラヴェット文化を持つエピグラヴェット人に関連する「Villabruna」遺伝子を継承している住民の遺跡が混在していることが分かりました。
しかも、カニバリズムによる葬儀の文化を持つ遺跡は、マグダレニア人の遺伝情報を持つ住民の遺跡に限定されることが分かりました。カニバリズムの象徴となっていた、装飾が施されたり肉を削がれた形跡があったりする遺骨もマグダレニア人のものだけであり、エピグラヴェット人のものは含まれていませんでした。
つまり、マグダレニア人は敵である他民族を殺して食べたのではなく、仲間を弔う方法として人肉を食べたり骨を加工したりしていたことが示唆されました。
謎多き先史時代のカニバリズム
一方、エピグラヴェット人が住んでいた遺跡は、いずれも後世に伝わる「通常の埋葬」が行われていました。北西ヨーロッパの葬儀がカニバリズムから埋葬に移行したことは、マグダレニア人が埋葬の文化を受け入れたのではなく、エピグラヴェット人が北西に移動してマグダレニア人に取って代わったことが原因と考えられるといいます。
研究チームは葬儀におけるカニバリズムについて、「食べられたほうと食べたほうの間に血縁関係があったのか」「自分たちのグループ以外の人間を食べていたのか」など、今後さらに深く分析していく予定です。
先史時代のカニバリズムについては動機や意図が分からない場合が多く、いまだに謎に包まれています。たとえば09年にスペイン北部のアタプエルカ遺跡で発掘された「最初のヨーロッパ人(ホモ・アンテセソール、約80万年前の旧人類)」の遺骨から示唆されるカニバリズムは、子供や若者が好まれて食べられていることから、儀式としてではなく敵対者が食人を目的として行ったとする説が提唱されています。
今回の研究で示唆された「葬儀で行われるカニバリズム」は、時代が下り、現生人類が仲間の死を哀悼するために「何かをしたい」と考えるようになった結果の行為かもしれません。一見、グロテスクで禁忌とも思える人の共食いにも、人類の進化の歴史が隠されているのかもしれませんね。

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