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127℃、大気圧下で超伝導が成功? 超伝導研究の成果が「もし本当なら画期的」と疑ってかかられる理由
超伝導(超電導も同じ意味)とは、特定の金属や化合物を絶対零度(0K、マイナス273.15℃)近くまで冷やしていくと、ある温度で電気抵抗が急にゼロになる現象です。
電流が流れると、超伝導体(超伝導が起きている物質)以外の通常の物質では熱が発生し、電気のエネルギーの一部が失われます。けれど超伝導の場合は、電気抵抗がないために発熱せず、エネルギーのロスが起こりません。また、超伝導が起きると、超伝導体の上に磁石を乗せると空中に浮かぶ「磁気浮上」が観察されます。
超伝導の原理は、現在でも医療用のMRI(核磁気共鳴断層撮影装置)などに使われています。開発中の中央新幹線(超電導リニア)も、時速500キロで走るために超伝導による磁気浮上を利用する予定です。
ただし、MRIでも超電導リニアでも、マイナス269℃の液体ヘリウムで冷却したニオブチタン合金が超伝導体として使われています。冷却コスト問題の解消やどこでも利用できるようにするために、より高温で超伝導が起きる物質の研究開発が、世界各国で進められてきました。
これまでに超伝導が起きた最高温度として広く受け入れられている記録は、18年に米アルゴンヌ国立研究所のマダリー・ソマヤジュラ博士らが水素化ランタン化合物で達成した260K(約マイナス13°C)ですが、これはメガバール領域(100万気圧)での成功です。冷却がいらない温度(常温あるいは室温)で大気圧(常圧)下での成功は、超伝導の最終目標と言えるでしょう。
合成は簡単、他機関も再現を試みる
今回、韓国チームは、開発したLK-99は大気圧下かつ127℃以下ならば超伝導が起きると主張しています。つまり、超伝導の最高温度を一気に140℃更新し、しかも1気圧でよいという意味です。LK-99は、李石培(Sukbae Lee)博士と金智勳(Ji-Hoon Kim)博士の頭文字から名付けられたそうです。
この物質は、化学式がPb10-xCux(PO4)6Oの鉛アパタイトの一種で、ラナルカイト(Pb2(SO4)O )とリン化銅(Cu3P)をモル比1:1の割合で粉砕した混合物を、真空排気して密封したうえで925℃まで加熱すると形成されるといいます。研究者らは「鉛の一部が銅に置き換わることによって結晶が歪み、それが超伝導のメカニズムに関わっているのではないか」と考察しています。
韓国チームはLK-99が磁気浮上している動画を公開し、7月28日には韓国の論文誌にさらに実験データを増やして投稿しました。加えて、LK-99は非常に簡単に合成ができるので、米アルゴンヌ国立研究所、南京大学物理学部、インド国立物理研究所などがすぐに追試を始めて超伝導の再現を試みました。けれど、8月2日現在、失敗に終わったと発表しています。LK-99の研究者たちは、結晶は多結晶で不均一だと述べているので、単結晶で均一な結晶を作成することができれば、再現が可能なのかもしれません。
実際に、中国の華中科技大学は、結晶の状態は明らかにしていませんが「作成したLK-99の磁気浮遊の動画」を公開して韓国チームの実験の再現を示唆しています。さらに米ローレンス・バークレー国立研究所と中国の瀋陽国立研究所は、密度汎関数理論を使って「理論上ではLK-99は常温常圧で超電導を起こしうる」という計算結果を発表しています。
ロウ博士も第1報以来、新情報が入るごとに記事を更新しており、8月1日には「瀋陽とローレンス・バークレーの計算は非常に前向きな展開。世界がこれまでに見た室温常圧での超電導現象の中で最も信憑性のあるものだ」と述べています。
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