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注射するだけで避妊効果、手術は不要──ネコの遺伝子治療成功の意義と問題点
ネコや愛猫家にとって「夢の技術」に?(写真はイメージです) GoodLifeStudio-iStock
<メスネコに注射するだけで長期間の避妊効果が得られる新たな方法が開発された。遺伝子治療による避妊法をネコに施すことで期待できる3つの保護効果とは? 方法の詳細、問題点とあわせて概観する>
米ハーバード大のデビッド・ペピン博士とシンシナティ動物園・絶滅危惧動物保護研究センターの研究チームは、メスネコに注射するだけで長期間の避妊効果が得られる新しい不妊処置法を開発しました。
これは、無害なウイルスに卵胞の成長を抑制する遺伝子を組み込んで個体に導入する遺伝子治療の手法で、研究成果は6月6日付けの学術誌「nature communications」に掲載されました。実験に使われたネコは6匹とまだ小規模な試験の段階ですが、ニューヨーク・タイムズも報じるなど注目を集めています。
研究機関の「絶滅危惧動物保護研究センター」の名称が示すように、この研究はアメリカではノネコ(イエネコが野生化したもの)が増えすぎて、毎年250億匹以上の小型鳥獣が狩りの対象となっていることが発端となって進められました。
けれど、もしこの方法が日本でも使われるようになれば、飼い猫の避妊手術の代わりに使うことで、ネコの身体の負担や飼い主の金銭的な負担を減らせるかもしれません。さらに現在は特定の飼い主がいない地域猫(ノネコ・野良猫)は、増やさないためにボランティアが一匹ずつ捕まえて獣医師のもとに連れて行って避妊去勢手術を受けさせていますが、もっと手軽にバース・コントロールができるようになって、殺処分数を減らせるようになるかもしれません。
遺伝子治療による避妊法は、ネコや愛猫家にとって「夢の技術」なのでしょうか。方法の詳細や意義、問題点を概観してみましょう。
1度の処置で長期的な効果を得られる可能性
ネコの避妊手術に遺伝子治療を利用することを思いついたペピン博士は、もともとはヒトの卵巣がんの治療法に役立てるために「抗ミュラー管ホルモン(AMH)」を研究していました。
AMHは、子宮や輸卵管など女性生殖器の原型であるミュラー管の発育を抑制する作用があり、胎児の男性生殖器の発達に重要な役割を果たしています。また、思春期以降の女性では月経周期ごとに複数の原始卵胞が発育しますが、排卵にたどりつく主席卵胞は1個だけです。AMHに、主席卵胞以外の原始卵胞の発達を抑制する効果があるからです。
ペピン博士は、AMHをメスのマウスに注射してみました。すると、投与量が一定の値(しきい値)を超えると、卵胞の成長が抑制されたり、卵巣が新生児サイズまで縮小して妊娠できなくなったりました。この事実はヒトの卵巣がん治療には好ましくありませんでしたが、うまく使えばAMHを避妊に使えることを意味していました。
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