コラム

カーレーサーはレース中、きまって「ある場所」でまばたきしていることが明らかに

2023年05月30日(火)12時50分

まばたきに関する研究は、1898年にドイツの生理学者S. ガルテンが執筆したものが最古の学術論文と考えられています。1928年には英エジンバラ大の生理学者であるポンダーとケネディが、私たちが無意識に行うまばたきの意義について、はじめて論文で指摘しました。

まばたきの種類は、現在は一般に①自発性瞬目、②反射性瞬目、③随意性瞬目に分けられます。①は私たちが普段、無意識に行うまばたきで、②は目にゴミが入ったり眩しかったりする時にとっさに行うもの、③はコミュニケーションとして片目をつむるウインクのように意識的に行うものです。

映像の「句読点」にまばたき

日本でまばたきの研究をリードする認知脳科学者の中野珠実・大阪大教授は、「まばたきの発生頻度は、精神状態によって大きく変化する」と指摘しています。ゲームやパソコンを使用しているときには発生頻度は抑制され、人前で話すときや難問を解いているときには増加するといいます。ただし、退屈しているときもまばたきの回数は増加するそうなので、心の状態をまばたきの回数から推定するのは難しいようです。

中野教授は12年、イギリスのコメディドラマ「Mr. Bean」を人々に見てもらい、鑑賞中のまばたきのタイミングが揃っているかどうかを実験した研究の成果を発表しました。それによると、まばたきのタイミングの差は0.6秒以内で、ほぼ同期していることが分かりました。さらに、まばたきは、主人公の動作の切れ目や繰り返しのシーンなど、映像の「句読点」に当たる場面で生じていることが分かりました。つまり、ヒトは無意識に出来事のまとまりを見つけて、その切れ目で選択的にまばたきを発生させていることが示唆されました。

実験ではさらにMRIで脳活動の変化を観測し、外界を見ている時とまばたきの時では、脳のさまざまな活動領域が大きく変化することを発見しました。外界を見ている時は視界のどこに注意を払うのかという機能の活動が増加し、まばたきの時は考え事をするときに活動が増える部位が活発になったのです。

ラップタイムが速い時ほど、まばたきのパターンが明確

今回、NTTの研究チームは、トップアスリートのパフォーマンスを分析することで、本人すら無自覚である脳機能を解明しようと考えました。レーシングチーム「DOCOMO TEAM DANDELION RACING」に属する全日本スーパーフォーミュラ選手権に参戦する3名のトップドライバーを対象にして、フォーミュラカーで実際にサーキットを走行してもらって心身のさまざまな状態を計測しました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

最近の急速なウォン安・円安、深刻な懸念共有=日韓対

ワールド

米戦略石油備蓄の第1弾、来週末までに供給 8600

ビジネス

日立とGEベルノバ、東南アジアで小型モジュール炉導

ワールド

米商務省、AI半導体輸出の新規則案を撤回 公表から
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革命をもたらす「新世代ドローン」とは?
  • 3
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈祷」を中国がミーム化...パロディ動画が拡散中
  • 4
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 5
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 6
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 7
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 8
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    『ある日、家族が死刑囚になって』を考えるヒントに…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story