コラム

インプラント不要、ヒトの脳内思考を読み取ってAIで文章化する方法が開発される

2023年05月24日(水)10時20分

SNSサービスのFacebookの研究機関であるFacebook Reality Labsは21年、ヒトの考えをリアルタイムでコンピュータに出力する「ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)」を発表しました。非侵襲的な方法を目指していますが、このBCIは脳インプラントを利用しています。

イーロン・マスク氏らが2016年に創設したNeuralink社は、BCIを開発し、脳とコンピュータをつなげることを目標としています。同社は22年11月に研究の進捗を発表し、髪の毛よりも細い数千本の電極を脳の表面に埋め込むことで、脳の運動指令を手足に伝えて四肢麻痺患者の歩行支援をしたり、思考で映像を見たり、コンピュータ上に文字を出力したりできる未来を示しました。

非侵襲的な方法では、米カーネギーメロン大の研究チームは17年、今回のテキサス大と同じようにfMRIとAI学習を使うことによって、自殺志願者を90%以上判別できたと発表しました。情報通信や脳科学分野の民間研究機関であるATRと京都大は18年、頭の中にあるイメージをfMRIとディープランニングによって画像として提示することに成功しています。

解読を妨害する方法

いっぽう、小型の脳活動記録装置が一般的になれば、思考解読装置を持つ独裁者が全国民に強制的に装着させて思考を把握し、支配するおそれもあるでしょう。

テキサス大の研究チームは、昨年9月に今回の研究を速報として発表した際に、「思考の『盗み見』を防ぐ方法」の研究成果も示しています。

文章を聞かせる時に、被験者たちに①動物の数を数える、②動物の名前を答える、③聞こえてくる文章とは全く別の内容を頭の中で想像するなど、AIが脳活動から文章を再現する場合に妨害となりそうな試みをしてもらいました。すると、聞きながら「イヌ、ネコ、サル......」などと動物の名前を口に出す方法が、もっともAIの文章再現の性能を下げることができることが分かりました。

「動物の名前を言うとなぜ効果があるのか」のメカニズムは不明ですが、不穏な近未来社会が到来した場合は、「もしも」の時のために覚えておいたほうがよいかもしれませんね。

ニューズウィーク日本版 世界最高の投手
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月18日号(11月11日発売)は「世界最高の投手」特集。[保存版]日本最高の投手がMLB最高の投手に―― 全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の2025年

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米公民権運動指導者ジャクソン師、進行性核上性麻痺で

ワールド

ベトナムのハイテク優遇措置改革、サムスンなど韓国企

ビジネス

午後3時のドルは154円後半で底堅い、円売り継続 

ワールド

インド、証券取引委員会幹部の資産公開を提言
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story