コラム

5類引き下げ前におさらいする、新型コロナのこれまでとこれから

2023年05月02日(火)15時10分

3.WHOは手のひらを返した? ワクチン接種の指針と副反応疑い

WHOは3月28日に世界に向けたワクチンの接種指針を改定して「健康な成人や子どもには定期的な追加接種を『推奨しない』」としました。ネットでは「WHOが反ワクチンに転じた」「3回目を接種するんじゃなかった」などの極端な意見も交わされていますが、あくまで先進国以外の事情も踏まえて新型コロナの現状と公衆衛生、費用対効果から出された指針なので、ワクチンが危険とか無意味というメッセージは含んでいません。

日本では、コロナワクチンの副反応や後遺症についての取りまとめや報道が遅れたこともあり、ワクチンへの不信感が根強くあります。

5月1日に公表された日本のワクチン接種状況は、総接種回数が3億8367万8371 回です。Our World in Dataの最新の集計では、日本は少なくとも1回以上ワクチン接種した人の割合は84.47%で世界6位、人口100人あたりのワクチン接種回数は309.53回で世界1位となっています。

4月28日の厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会)では、副反応疑い報告制度において23年3月12日までにワクチン接種後の死亡例として報告されたものが公表されました。12歳以上では、ファイザー社1829件(100万回接種あたり6.2件)、モデルナ社224件(同2.7件)、武田社1件(同3.2件)でした。小児(5~11歳)は3件(同0.8件)、乳幼児(6か月~4歳)は0件でした。ただし、いずれも現時点ではワクチンとの因果関係があるとは結論づけられませんでした。

コロナ後遺症に関しては、国立国際医療研究センターが20年2月から21年11月までに新型コロナ患者として受診した20代から70代の502人に対して、その後の症状を聞き取って分析したところ、感染から1年半後の段階でも4人に1人が後遺症とみられる症状を訴えたという結果が出ました。子どもに関しては、日本小児科学会の研究チームが20年2月から23年4月11日までに学会のデータベースに寄せられた0~15歳を中心とした20歳未満の感染者4606人の情報を分析し、感染者のうち発症から1カ月以上たっても続く後遺症がある割合は3.9%だったと発表しています。

WHOも日本の厚労省も、新型コロナワクチンはどの年代においても「有効で安全」との見解を示しています。もっとも、流行初期は集団免疫を付けるために国策的なワクチン接種計画に協力する姿勢も求められましたが、本来、ワクチンは「感染して重症化するリスクよりは、ワクチンの副反応のリスクを取ったほうがよい」と考える人が打つものです。今後はますます、個人がリスクとベネフィット、社会状況を熟慮して、ワクチン接種をするかどうかを判断しなければならなくなるでしょう。第5類に移行しても、安心しすぎずに新型コロナの感染状況を見守り続けたいですね。

ニューズウィーク日本版 ISSUES 2026
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月30日/2026年1月6号(12月23日発売)は「ISSUES 2026」特集。トランプの黄昏/中国AIに限界/米なきアジア安全保障/核使用の現実味/米ドルの賞味期限/WHO’S NEXT…2026年の世界を読む恒例の人気特集です

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カナダ首相、対ウクライナ25億ドル追加支援発表 ゼ

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story