コラム

DNA解析から縄文人度の高い地域を探れば、肥満や喘息になりやすい県民も分かる?

2023年02月28日(火)11時25分

今回、大橋教授らは、現代日本人の縄文人と渡来人との混血度合いの地域差を示すために、縄文人由来の遺伝子変異の保有率に注目しました。

まず、本土日本(日本列島人のうち本州・四国・九州)の居住者約1万人のデータを用いて、各都道府県の集団がゲノム中に縄文人由来変異を何個保有しているかをカウントすると、縄文人由来変異保有率は青森県・秋田県・岩手県・宮城県・福島県・茨城県・群馬県・鹿児島県・島根県などで特に高いことが分かりました。対して、近畿や四国の各県では特に低いことも示されました。また、縄文時代晩期から弥生時代にかけての人口増加率が高かった地域の集団ほど、現代では縄文人度が低いことも分かりました。

解析結果に見る、縄文人の3つの特徴

現代日本人のゲノムの中には、縄文人由来変異の集積した「縄文人に由来するゲノム領域」と、縄文人由来変異の見られない「渡来人に由来するゲノム領域」があります。研究チームは、ゲノムを2つの領域に分類し、縄文人と渡来人の表現型を推定する解析を行いました。

解析の結果、縄文人には渡来人と比べて、①遺伝的に身長が低い、②血糖値が高くなりやすく中性脂肪が増えやすい、③白血球の一種である好酸球やCRP(炎症反応で血中に増加するタンパク質)は増えにくい、という特徴が見られました。

縄文人は、稲作文化を持つ渡来人と比べて炭水化物食への依存度が低いため、血糖値や中性脂肪を高く維持して狩猟採集へ適応していた可能性が示唆されます。一方、農耕社会を作った渡来人は、集団サイズが増し集落間の交流も多かったため、好酸球やCRPを高めることで感染症への抵抗性を獲得した可能性があります。

現在は、血糖値や中性脂肪が増えやすいと肥満の要因となり、好酸球が増えやすいと喘息の要因となることが知られています。研究チームは、本土日本では縄文人度合いの高い都道府県ほど5歳児における肥満率が高く、縄文人度合いの低い都道府県ほど喘息増悪率が高いことも突き止めました。

研究チームはこれらの結果から、「縄文時代末期から弥生時代にかけての人口規模の地域差によって、本土日本の地域間で縄文人と渡来人の混血度合いに地域差が生まれ、現代日本人の遺伝子型や表現型の地域差となった」という「本土日本人の集団形成モデル」を提唱しました。今後、日本人の起源を探る研究において、人類学や考古学など様々な分野に影響を与える可能性があります。

日本に現存する最古の書物は『古事記』(712年)です。縄文時代や弥生時代の日本人の詳細は、文字で知ることはできません。けれど、現代日本人の体内の遺伝情報は、縄文人と渡来人の混血の歴史の証言者として、日本人の成り立ちを雄弁に語っています。

ニューズウィーク日本版 「外国人問題」徹底研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年1月27号(1月20日発売)は「『外国人問題』徹底研究」特集。「外国人問題」は事実か錯覚か。移民/不動産/留学生/観光客/参政権/社会保障/治安――7つの争点を国際比較で大激論

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ネトフリ共同CEO、ワーナー株主の支持獲得に自信=

ビジネス

日産、南ア工場を中国・奇瑞汽車に売却へ 額は非開示

ビジネス

ドル一時157円前半に急落、日銀総裁会見後

ワールド

ベトナム共産党、ラム書記長を再任 記者会見へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 2
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレアアース規制で資金が流れ込む3社とは?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 8
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 9
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 10
    宇宙人の存在「開示」がもたらす金融黙示録──英中銀…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 9
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 10
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story