コラム

「遊戯王」作者の事故死に見る、マリンレジャーに潜む危険

2022年07月19日(火)11時30分

かつては人食いザメの被害や目撃は沖縄周辺に限定されていましたが、近年は茨城、千葉、神奈川などでも見られるようになりました。沖縄県水産海洋技術センターによると、サメは一度噛んで食べ物かどうか確認した後に、いったん離れるそうです。周囲に人がいれば、その間に救助を求めることもできます。

ショップなどを利用してバディを組んで潜るスクーバダイビングと異なり、シュノーケリングは1人でも気軽に行えます。今回はサメの攻撃は直接の死因ではありませんでしたが、危険な生物に襲われた時の救助という点でも、単独でのマリンレジャーは控えたほうがよいでしょう。

クラゲに刺されたときの3ステップ

日本近海にはサメ以外にも危険な生物がいます。猛毒を持ち「電気クラゲ」の異名を持つカツオノエボシ、フグ毒を持ち死亡事故もあるヒョウモンダコ、尾に毒針を持ち浅瀬の砂泥に隠れているアカエイなどです。

神奈川県では、6月下旬から県内の海岸にカツオノエボシが数多く漂着し、被害が相次いでいます。見た目は水色の風船かプラスチック片のようで、子供が「何だろう」と興味を持って近づくおそれがあることから、かながわ海岸美化財団(茅ケ崎市汐見台)などは「海岸で見つけても絶対に触らないで」と注意を呼び掛けています。

カツオノエボシは浮き袋が約10センチ、触手は10~30メートルにも及ぶクラゲです。触手には毒針があり、外部からの刺激で針を発射する仕組みになっています。刺されると電気ショックのような激痛が走り、腫れたり発熱したりします。複数回刺されると、急激な血圧低下で意識を失う「アナフィラキシーショック」を起こして死に至ることもあります。死後も数日間は毒針を発射することがあり、触れるのは非常に危険です。

海開き後、最初の週末となる2日は、鎌倉市の海水浴場に約2500人が訪れました。当日、材木座と由比ガ浜の両海水浴場でクラゲに刺されたという報告は計68件あり、救急要請は9件10人に上りました。辻堂海岸(藤沢市)では乳幼児2人を含む3人を救急搬送。茅ケ崎市でも9人がクラゲに刺されたと訴え、1人が救急搬送されました。

近づかないことが何よりの対策ですが、刺された場合は①触手や刺胞が残っていたら海水か水をかけ、患部自体も静かに洗浄する、②ライフセーバーがいる海岸では状況や症状を相談する、③症状が重いと判断されたら躊躇せずに救急車を呼ぶ、と藤沢市消防局は対策を語ります。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、今後5年間で財政政策を強化=新華社

ワールド

インド・カシミール地方の警察署で爆発、9人死亡・2

ワールド

トランプ大統領、来週にもBBCを提訴 恣意的編集巡

ビジネス

訂正-カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 8
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 9
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 10
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story