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解剖実習遺体からプリオン検出の意味、プリオン病の歴史とこれから
日本のBSEの発生状況は、2001年9月に千葉県で発見されて以来、09年1月までに36頭の感染牛が見つかっています。これまでのところ、03年以降に出生した牛からは、BSEは確認されていません。
現在までに変異型クロイツフェルト・ヤコブ病を発症した日本人は1人いますが、英国、フランス、スペインに短期の渡航歴(合計で約1カ月間)のある男性でした。日本では過熱報道による犠牲者のほうが多く、BSEが発生したと報じられた畜産農家の経営者や、後にBSEだと判定された牛の目視検査を担当した獣医師など5人が自殺しました。
世界中で特定危険部位の除去が徹底された結果、1992年のピークには世界で約3万7000頭だったBSEの発生は、7頭(13年)まで激減しました。
想像以上に罹患者は多い?
BSEに起因するヒトのプリオン病が制圧された現在、獲得性のプリオン病の憂慮はなくなったのでしょうか。
日本では「医原性」のプリオン病が問題になったことがあります。患者の治療のために行われた医療行為が、新たな疾患であるプリオン病を引き起こしてしまった例です。
脳外科手術で用いられるヒト乾燥硬膜は、死体から採取された大脳を覆う一番外側の膜です。患者が外傷や開頭手術などで硬膜を損傷した場合に使われます。
日本では73年以来、医療用具としてドイツから輸入していましたが、移植した患者にクロイツフェルト・ヤコブ病が多発したことで、97年3月に回収の緊急命令が出されました。
この事件は、ドイツのB・ブラウン社製品「ライオデュラ」が、杜撰な製造方法のためにクロイツフェルト・ヤコブ病の病原体に汚染されていたことに起因しています。日本では30万人以上の患者が移植を受け、孤発性の500倍(100万人に500人)の確率で同病を発症しました。
今回の長崎大の事例で解剖遺体からのプリオン検出に使われた技術は、学生実習の安全性確保だけでなく、将来的には医療現場でも手術前や臓器提供前に利用してプリオン病の感染拡大防止に役立てられる可能性を秘めています。
2年間で検査した約80体の遺体の中に未診断のプリオン病を発見したということは、世の中のプリオン病の罹患者は想像以上に多いのかもしれません。医療関係者だけでなく医療技術の受け手となる全ての人々を守る技術として期待は高まります。
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