コラム

核融合エネルギー、世界新達成も2050年の実用化は無理?

2022年02月22日(火)11時25分

2050年は、地球温暖化に関する目標達成の世界的に重要な節目の年にもなっています。

国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、産業革命以来の気温上昇を1.5度以内に抑えるには、2050年頃までに温室効果ガスの実質排出量をゼロにするカーボンニュートラル(ネットゼロ)の達成が必要です。日本を含めた120カ国以上が、2050年までのカーボンニュートラルの実現を表明しています。

核融合発電が実用化すれば温室効果ガス削減に大きな効果がありますが、これまでの開発ペースでは2050年までの実用化は不可能です。日本は核融合関連の研究開発に年間200億円以上の予算を使っています。開発に時間がかかりすぎてカーボンニュートラルの解決策にならない、30年の間には、技術的・経済的にもっと実用化しやすいクリーンエネルギーが得られるのではないかという批判もあります。

とはいえ、核融合発電の研究は、日本の総合的な科学技術力を大きくステップアップさせる機会になると期待されています。実用化を目指すことで、高温プラズマの研究だけでなく、1億度に耐えうる装置や磁場を作成するコイルの作成、特殊な電源の開発、効率的な電力の取り出し、安全対策の技術など広範な科学技術が必要なため、分野を横断する研究者の協働が求められるからです。プロジェクトを俯瞰して統括するマネジメント人材の育成も促進されますし、若手研究者が国際プロジェクトに参加することでグローバル人材の育成にもなります。

多大な費用をかけて研究開発する核融合発電の費用対効果の議論はこれまで以上に進めるべきですが、このプロジェクトの最大のメリットは、技術、人材の両面から日本の科学技術力を総合的に底上げできるところでしょう。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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