コラム

核融合エネルギー、世界新達成も2050年の実用化は無理?

2022年02月22日(火)11時25分

核融合エネルギーの利点は、①重水素と三重水素の原料になるリチウムは海水中に豊富に含まれていて、日本は輸入に頼らなくてよい、②反応で発生するのはヘリウムと中性子だけで、温室効果ガスが発生しないクリーンエネルギーである、③太陽光のような他のクリーンエネルギーと比べて、気象条件や環境に左右されずに一定ペースでエネルギーを生み出せることです。

さらに、核融合反応は核分裂反応のような連鎖反応がないため、原理的に暴走が起こらないので安全性が高いといえます。燃料1グラム当たりのエネルギー量は、石炭・石油・ガスと比べると400万倍にもなり、廃棄物もほぼ出しません。

といっても、今回生成に成功した59メガジュールのエネルギーでは、家庭用の浴槽に入る200リットルの常温水(20℃と仮定)を沸騰させることすらできません。核融合発電の実用化は遠い道のりのようです。

核融合発電実用化への3ステップ

文部科学省は、核融合エネルギーの実用化に向けた研究開発を大きく三段階に分けて考えています。

第一段階は、プラズマを高温にするために外部から投入されるエネルギーと、核融合反応によって生じるエネルギーが等しくなる「臨界プラズマ条件」を満たす段階です。国内の実験では、日本原子力研究所のJT-60で1996年秋に達成しました。

第二段階は、プラズマが加熱を止めても核融合エネルギーによって持続する「自己点火条件」の達成と、プラズマを長時間維持する段階です。現在、日本や世界が取り組んでいるのがこの局面です。

第三段階は、実際に発電をして技術的な実証と経済的実現性を検証する段階です。「原型炉」を建設して運転します。これらの三段階を経て、核融合発電の実用化を目指します。

フランス南部のカダラッシュに建設中の国際熱核融合実験炉「ITER(イーター)」は、世界人口の半分以上、世界GDPの4分の3以上を占める、日本、EU、米国、ロシア、中国、韓国、インドの7極が計画に関わっています。

JETの10倍の容量のドーナツ型装置を使って臨界プラズマ条件を達成し、約400秒の核融合反応を行う予定です。

2025年に設備を完成させ、2035年に核融合を開始する計画ですが、すぐに核融合発電が実用化できるわけではありません。2050年頃に原型炉を建設して、商業的に採算がとれるかの検討も含めた実用化の判断をします。日本では国産の原型炉の運転開始も2050年に目標設定しています。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

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