コラム

未来予想図の答え合わせ 100年前、50年前、そして50年後はどんな世界に?

2022年01月11日(火)11時30分

もっとも、環境問題に関しては悪い予測だけではありません。世界各国が環境への配慮をすることで、紫外線増大や地球温暖化の原因となるオゾンホール(南極・北極での春期のオゾン濃度減少)は修復され、日本ではCO2排出量は実質ゼロになると考えられています。

2070年の科学技術については、東京理科大学理工学部の教員が2016年に「50年後の未来予想図」を作りました。一部を紹介しましょう。

災害対策では、都市には地震エネルギーを吸収する免震プレートが敷かれて、大地震が起きても被害が軽減されます。地震で揺れず、津波の影響が少ない海上都市も建築されます。

医療面では、健康チェックトイレによって尿が即時に分析されます。さらに、結果はオンラインで医療機関に送られるので、病気の早期発見や経過観察に役立ちます。近赤外線を使った新しい画像診断装置も開発されます。

エネルギー問題を解決するため、世界規模の電力網が結ばれ、太陽光発電や風力発電などの環境負荷の小さい方法で、世界中の国や地域が電力を融通しあえるようになります。

「見たい夢」を設定できるベッドも

さらに、宿泊予約サービス「ホテルズ・ドットコム(Hotels.com)」は、未来学者ジェームズ・カントンと共に「2060年以降のホテル像」を取りまとめました。

未来のホテルでは、宿泊客には自立型ロボットがバトラーとして付いて、送迎やコンシェルジュサービス、料理、清掃、時にはビジネスのアドバイスまで提供します。客室には発展型3Dプリンターが完備され、洋服や電子デバイスを作ったり、ネットショッピングしたものを実物でダウンロードしたりすることも可能です。DNA解析によって滞在者個人に合わせたアンチエイジング・スパが用意され、ベッドには「見たい夢」を設定できます。

ホテルの形態も多様になります。AR(拡張現実)ホテルが登場し、宿泊客は時空を超えた冒険旅行や歴史探訪なども体験できるようになります。

50年後は、科学技術の発展という面では現在よりも生活環境は向上します。けれど、自然環境や人口の予測も含めると、単純に明るい未来とは言い難そうです。さらに、物理学者でAI(人工知能)兵器に詳しい作家のルイス・A・デルモンテは、「2070年には、AIが人間のあらゆる認知能力を超え、人知を超えた兵器が現れる」と予測しています。AIに人が支配されない対策を立てるためにも、2070年までの50年間は人類にとって大切な時間になりそうです。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む

ビジネス

SOMPO、農業総合研究所にTOB 1株767円で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 9
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story