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なぜ世界最高峰の医学誌BMJはクリスマスにハジけるのか?
普段の真面目な医学論文との差が魅力(写真はイメージです) Vasyl Dolmatov-iStock
<「血も凍るような」ホラー映画で本当に血は固まる? 外科医の誕生日に手術を受けると死亡率が上がる? 選りすぐりの面白論文5本を紹介し、クリスマスに特集号を出す意味を考察する>
BMJ(イギリス医師会雑誌:ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル)は、世界五大医学誌の一つにも数えられる権威のある学会誌です。1840年に出版されて以来180年の歴史があり、最近も新型コロナウイルス感染症の非重症患者にカシリビマブ/イムデビマブ(中和抗体薬)を投与すると、入院リスクを低下させるという論文が注目されました。
最新のインパクトファクター(ジャーナル影響度指数:高いほど、その分野で名声を得ており、掲載が難しい)も39.89と、研究者からの信頼が厚いBMJですが、毎年クリスマスの時期になると、イグノーベル賞*1受賞作を凌駕するような面白論文の特集号を出版します。しかも、普段の真面目な医学論文の全文は有料でしか読めないのですが、クリスマス特集号の論文は誰もが無料でウェブ上で読めるようになっています。
この10年間のBMJクリスマス特集の中で、選りすぐりの面白論文5本をご紹介します。
1. 『死神の歩く速さは?』(2011年、フィオナ・スタナウェイ氏ら)
オーストラリアの70歳以上の男性1705人を対象としたコホート研究(特定の要因を持つ集団と持たない集団を一定期間追跡して、疾病率や死亡率を比較したもの)で、対象者の平均歩行速度は秒速0.88メートル(時速3.17キロ)でした。
その後5年間、4カ月毎にチェックをしたところ、秒速0.82メートル(時速2.95キロ)よりも速く歩く高齢男性は、それ以下の歩行速度の人たちよりも1.23倍死亡率が低いという結果が得られました。とりわけ、歩行速度が秒速1.36メートル(時速4.9キロ)より速い場合、5年間での死亡者はいませんでした。そこで、スタナウェイ氏らは「死神の歩行速度は、普段は秒速0.82メートル、最大速度は秒速1.36メートルで、死にたくない人にはこれ以上の速度で歩くことを勧めるとよい」と結論付けました。
時速4.9キロで歩けるのは、かなりの健脚者です。近年は高齢者の筋力低下が問題になっています。歩くのが遅くなる、転倒や骨折をしやすくなる、寝たきりになるなど、生活水準が著しく低下する懸念があるからです。この論文は歩行速度による生存分析を「死神」を使って分かりやすく説明したところに意義があります。
2. 『"血も凍るような"ホラー映画で血は固まるのか』(2015年、バンネ・ネメス氏ら)
ライデン大学医療センターの30歳以下24名が、約90分間のホラー映画と教育的な映画を1週間以上の間隔を開けて視聴しました。14名はホラー映画を先に、残り10名は教育的な映画を先に鑑賞しました。
交絡因子(調べたいもの以外の、結果に影響する要因)を避けるため、映画の上映日には、参加者はアルコールとタバコは禁止。さらに、迷信の影響も避けるために、満月の間と13日の金曜日には映画の上映は行いませんでした。それぞれの映画の視聴前後で血液凝固因子を評価したところ、第Ⅷ因子はホラー映画を見た後の方が有意に増加しました。
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*1 1991年に始まったノーベル賞のパロディ版。「裏ノーベル賞」として知られる。賞の創設者マーク・エイブラハムズ氏は、「最初は笑えるが、その後考えさせる科学研究に贈る賞」と説明
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