コラム

日本学術会議問題を「総合的俯瞰的に」考察して浮かび上がった、菅総理の驕り

2020年12月03日(木)21時26分

新型コロナ対策をみても、経済活動全体に責任を持つ政治家と、科学的に正しい分析について提言を行う学者の立場は往々にして摩擦が起きる。

学者の学問が真理の探究にかかわり人類文化にとって意義あるものでありながら、その批判的性格ゆえに時の権力による干渉を受けやすい。滝川事件(1933年)や天皇機関説事件(1935年)のように直接国家権力によって学問の自由が侵害された歴史があることから、戦後の憲法では特にその自律性を尊重すべく第23条において「学問の自由」が規定されている。

現実的な「普通の国」か理想的な「特別の国」か

もう一つ、戦後日本に特有なキーワードが、憲法9条を巡る議論に象徴される現実的な「普通の国」か理想的な「特別の国」か、の対立構造だ。

我々が現行憲法とそれに基づく国家体制のもとで当然と思っていることが世界的にはかなり「特別な事」だったりする。

日本国憲法では、憲法9条1項で戦争・武力行使が禁じられ、9条2項では「軍」の編成と「戦力」不保持が規定されている。他国に攻められた時の「個別的自衛権」すら憲法の条文に反するという学者もいる国だ。

本来であれば、自衛権を明確に9条を改正して、一部の自民党議員が言うように「国防軍」として憲法で明確に定義すべきだろう。

ただし、日米安全保障条約と、それとセットの日米地位協定によって、実質的にアメリカの核の傘と在日米軍の存在により国防と平和主義を絶妙なバランスで維持してきたのが我々の戦後社会だ。この曖昧な平和憲法の9条によって、徴兵制もなく、軍事予算も米国等と比較して押さえられており、日本は戦後1人の戦死者も関連犠牲者も国の内外共に出していない。そして世界最強のパスポートを持つ日本人は各国で歓迎され、テロの対象になるリスクが相対的に少ない。これも、このあいまいな憲法9条下の戦後日本外交の成果でもある。

そうしたなか2015年、安倍政権は米国との安全保障体制を維持するために米国の要望する集団的自衛権の行使を実現に踏み切った。本来は憲法を改正して国民に判断を仰ぐべきところ、そのハードルが高いとの状況判断のなか内閣法制局長官の人事を強引に変え、「解釈変更」で押し切った。

憲法9条とは?3つの憲法改正案と非常事態宣言について

一国平和主義が困難になり、中国や北朝鮮といった軍事的脅威が現実的に迫ってくる。そうした環境変化の中、ファイブアイズ等の機密情報を共有する枠組み等国際的な安全保障体制に日本が参加する必要がある。その為に集団的自衛権の安保法制や、それとともに議論された共謀罪、秘密保護法等は、必要なものであったと個人的には理解している。

プロフィール

安川新一郎

投資家、Great Journey LLC代表、Well-Being for PlanetEarth財団理事。日米マッキンゼー、ソフトバンク社長室長/執行役員、東京都顧問、大阪府市特別参与、内閣官房CIO補佐官 @yasukaw
noteで<安川新一郎 (コンテクスター「構造と文脈で世界はシンプルに理解できる」)>を連載中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story