パスタな国の人々
世界垂涎のピエモンテ産白トリュフの季節。日本人唯一のトリュフハンター・富松さんの苦悩
高級和牛の希少部位や、イタリア産白トリュフなどなど、高価で希少なはずの食材が、安売りスーパーやファミレスで手軽な値段で売られていることがあるらしい最近の日本。らしい、というのは、日本のニュースや、日本の友人からの情報を聞いて、目にしているからだ(最近の円安や戦争の影響で、多少、安売りにも影が差しているかもしれないが?)。例えば下の写真は、日本の友人が嬉しそうに送ってくれた、牛の高級部位シャトーブリアンが100g880円で売られていたという写真。
白トリュフだってとても高価で、地元ピエモンテに住んでいたって、そう簡単に食べられるものではない。それがファミレスで??そんな常識的にはあり得ない価格や販売形式に疑問を感じていた私は、今年の夏のある日、富松恒臣さんのSNSの投稿を見て、なるほど!と唸った。北イタリアはピエモンテ在住で、日本人で唯一の、ピエモンテ州公認白トリュフハンターである富松さんは、ある朝、嫌悪感にスマホを握る手が震えたのだという。
その画面には「日本で白トリュフ売られています」というメッセージが表示されていたのだそうだ。7月にあるはずのない白トリュフが日本の某レストランで売られていたのだという。
産地偽装の疑い??
2001年、ソムリエの勉強をするためイタリア最高峰のワイン産地の一つ、ピエモンテ州にやってきた富松さんは、ある時、同じピエモンテ州の特産物白トリュフの魅力に取り憑かれ、公認ハンターの資格を取った。公認ハンターというのは、州が実施する試験に合格して与えられるトリュフハンターライセンス保持者のこと。トリュフハンターは、土の中に隠れているトリュフを犬を使って探し、掘り出すことを仕事とする。トリュフがどこにあるのかを探し出すのは簡単な作業ではないし、好き勝手にあちこち掘っていいというものではない。森の生環境などについても熟知して、ライセンスは年に一度更新する。安くないライセンス料も毎年納める。そうしてやっと、採取したトリュフを販売することができるのだ。富松さんは、ハンターになることで得た知識を活用して、株式会社「グレープジュース・プラス」を立ち上げた。現在は代表として、世界へ向けて上質なピエモンテ産白トリュフにこだわってビジネスを続けている。
そんな富松さんだから、世界各地の仲間からトリュフをめぐる情報が集まってくる。白トリュフの採取が許可される期間は、産地によって多少前後はするものの、イタリアやハンガリーの法律では10月から12月と法律で決められている。それなのに夏に流通しているのはおかしい。誰かが違法に収穫して日本へ売ったか、白トリュフ収穫の歴史が浅く、法整備がまだできていない国のものに違いない。トリュフの人気が世界的に、爆発的に広がっていることの弊害だと富松さんは言う。
著者プロフィール
- 宮本さやか
1996年よりイタリア・トリノ在住フードライター・料理家。イタリアと日本の食を取り巻く情報や文化を、「普通の人」の視点から発信。ブログ「ピエモンテのしあわせマダミン2」でのコロナ現地ルポは大好評を博した。現在は同ブログにて「トリノよいとこ一度はおいで」など連載中。