魅惑の摩天楼、香港フォト通信
黒の服と黒マスクは不審がられる日&じわじわと変わっていく香港
■どうして今日に限って黒ずくめの服装をしてまったのだ!
かなり日にちが過ぎてしまったけれど、6月のある夕方、いつものウオーキングに出かけようと思った。黒のTシャツに黒のレギンスを着て、前日から喉がいがいがしていたのでマスクを着けようと思った。上も下も黒なんでマスクは違う色がいいなと引き出しを開けたら、コロナ禍のマスク着用義務もとっくに終わった為、マスクの買い置きがなく黒のマスクが数枚あるだけだった。ま、いいか、ただの夜の散歩なんだからと黒Tシャツ、黒レギンス、黒マスク、黒のスニーカーでいつもの海沿いの道を歩きだした。フェリーターミナル近くに差し掛かったところで異変に気付く。警察の厳戒態勢でピリピリとしたただ事でない空気が漂っている。警察車両が沢山止まっている。前方に警官の円陣がいくつも出来ていて行きかう人を丹念に見ている。
そこで気づく。『アッ! 今日って、もしかしてあの日? 香港がぴりつく6月のx日だ。天●●広場で事件のあった日から3x年目の日だ。』
さっきからxとか●とかなんで伏字にしてるんだよと思われるかもしれない。
香港では今やあの事件は起きていない事になっている。教科書からも削除されている。ネットの検閲も強化されている。本土チャイナでは"ろくよん"(敢えてひらがなで書いています)とか"ろくにープラスに"とかもひっかる。あの日にちの事は言ってはいけないのである。2019年の抗議活動前までは6月のXデーには毎年コーズウエイベイのビクトリアパークにて追悼集会が大々的に行われていた。人々はキャンドルに火をともし、ある人はそのキャンドルを空に向かって上へ上へと掲げ追悼した。チャイナの領土内で堂々と追悼集会を行えたのは唯一香港だったと思う。しかしそれはもう終わった、集会は厳禁、御法度。当日キャンドルをともさなくてもスマホの懐中電灯機能をオンにして上に掲げても即警察の注意を受ける。本土ほど厳しくはないけれど、念のために●や伏字にして書いていることで香港は発言に注意しなくてはいけない場所となりつつあるのねと感じ取ってくれればと思う。
散歩の話に戻って、前方に警官がうじゃうじゃいる。
この日は例年追悼行事が行われていたビクトリアパーク近辺は厳戒態勢に入ると聞いていたが、この時私が散歩をしていたホンハムも緊張感が漂っている。
私は警官の塊を見て急に怖くなった。あの時の2019年の抗議活動の記憶がよみがえって来たのだ。
今でもトラウマになっている。日々起きていることが信じられなかった。『香港が壊れていく』と毎日つぶやいていた。
思えばホンハムは抗議活動中、一番激しい戦場と化した場所だ。
百聞は一見に如かずで抗議活動中の香港の様子を見て欲しい。
動画に映っている場所はホンハムである。燃えさかるトンネルはホンハムから香港島へと抜ける海底トンネルである。学生が籠城したポリテクニカル大学があるのもホンハムである。
今日の私の恰好まさにデモ隊ルックじゃないか。というわけで警察が固まっている中、手前で急にくるっと回って戻ったら疑われると思い歩いて行った。警官たちは別に気にせずもせず、私はその前を過ぎ去った。
なんか私って馬鹿みたいと思ったけれど怖かった。
でもスマホの懐中電灯をオンにして上に掲げて歩いていたら職質されていたと思う。
この日はやっぱり不可解だ。事件は起きていない事になっているけれどまだ人々の記憶には残っている。だから厳戒態勢に入る。それってやっぱり起きた事を認めているように取れるけれど。
■じわじわと変わっていく香港
なんで今回、時期はずれの上記のようなことを思い出して書いたかと言うと、起きた事なのに起きてない事と今後されていくのかしら? 思わせる事が最近あったからだ。
香港在住のサバイバルゲームにはまっているイギリス人の高校生たちが返還前までに使用されていた植民地時代の香港の旗の大判のポスターを印刷して、それをバックに写真を撮ろうということになった。
旧植民地時代の香港の旗はイギリスの国旗が左上にあり見た目は現在の香港の旗とは大違いで全面的にイギリス満々といったデザインだ。
ある印刷屋さんに出向いて少年たちが旧植民地時代の国旗のプリントを依頼したら、それは出来ないと断られた。たまたまそのお店がそうであったのかもと、その後別の業者5件に頼んだら全部の業者に断られた。業者は口々に『印刷したことがばれたら逮捕される』と言ったというだ。この件はイギリス系のインターナショナルスクールに通っている生徒や父兄の間でメッセージが随分と回った。
『これからは旧植民地時代の国旗もやばいらしいよ』と。
99年の借地が決まりイギリスの統治下におかれた香港の歴史もいずれは無かったことになるのだろうか?
じわじわと来ているなと感じたのであった。
著者プロフィール
- マリエ
香港在住の雑貨が大好きなフォトグラファー。大学卒業後、自動車会社、政府機関、外資企業にて広報担当。夫の転勤で香港に移住後、カメラに興味を持ち、日本人、外国人フォトグラファーに師事。現在、雑貨を可愛く撮るカメラ教室「Zakka Styling」を主宰。同時に家族写真、ロケーションフォトの依頼もこなす日々。インスタグラムはこちら。