悠久のメソポタミア、イラクでの日々から
クルディスタン春の風物詩
前回の記事でご紹介したラマダンも折り返し地点に来たイラク。
今年は本格的に夏場となる5月を避け、気候が心地いい4月とのことで断食を行うムスリムの友人も「今年はとても楽だよ」と話していました。
しかし4月にラマダンが被ることで残念なことが一つあります。それは「クルディスタン春の風物詩であるピクニックができない」という事情です。
断食をしている時、人々はわざわざ日中に遠出をしようとはしません。
例年、3月末のクルドの新年を過ぎた頃から人々は郊外にピクニックに繰り出すのですが、今年は冬が長かったこともありピクニック日和の日はほとんどありませんでした。しかも週末(金土)に雨が降るという不運が数週間連続で続き、今年はラマダン開始直前の3月最終週にのみ同僚たちとピクニックに行くことができました。
今回は毎年恒例、クルディスタン春のピクニックの様子をご紹介します。
大自然の中でのピクニック
いつも朝早く外出するなんてことはほとんどないイラクですが、このピクニックの日だけはみんな気合が入っており朝寝坊なんて存在しません。
今回は近場だったこともあり9:00出発でしたが、過去に少し遠出をした際には6:00出発ということもありました。
年間を通して外で過ごせる日が限られているので、ピクニックには全力を尽くします。
さて、出発し高速を降りると、この時期特有の光景がありました。
中東名物の「羊渋滞」です。
緑が一面に生える春の季節は家畜を育てる人たちにとっても大切な稼ぎ時です。
少し街を出ればヤギや羊、牛といった家畜をたくさん見ることができます。
これもお馴染みの光景ですので、皆さんも辛抱強く渡り切るのを待ちます。
そしてアルビル市内から一時間ほど車を走らせ、目的地に到着。
前述の通り、今回は近場を選びましたが、緑の絨毯が敷かれた絶景でした。
尾根を境に片側はこのように平原が広がり、寝っ転がるには最適な環境です。
そして反対側はこの景色。
今年は雨もたくさん降ったことから左手に見えるザブ川の水量も多く、夏場の寂しい雰囲気とは打って変わった迫力です。
水の流れによって形成された扇型の丘の地形。その上には集落も見えます。
何万年もかけて地殻変動と水の流れで作られた美しい風景がそこにはありました。
丘の上を歩いていると、様々な色の小さな花を見つけることができます。
これはその一つ、日本では見られないこの辺りに自生しているケシの花の仲間です。
数は多くありませんが、緑の景色に小さなアクセントを加えてくれます。
さて、この後石を使ったボーリングのような遊びを行い、お腹が空いてきたところでお昼の時間です。
こちらも毎度恒例のピクニックBBQ。今回はマリネにした鶏肉とラム肉を炭焼きにしました。
それを麓のパン屋さんで買った焼き立てナンで挟み、新鮮な野菜を使ったサラダを添えて食べます。
このシンプルな料理も春の風物詩の一つと言えるでしょう。
肉の油がパンにもしみ込んでおり、ついつい食べ過ぎてしまいます。
丘の頂上でお茶を飲み、各々ゆっくりしたら今度は麓の川まで降りて行きました。
いつもは枯れないか心配になる水量のザブ川ですが、春先の現在は近くで見るとこの迫力。
この川も南部でチグリス川に合流しペルシア湾へと流れ込む訳ですが、世界最古の文明と言われるメソポタミア文明から現代まであるその途方もない時の流れを感じさせてくれます。
ただ排水システムが整っていないイラクの川の水は綺麗とは言えないので、例え水深が低くなっても入ることは躊躇してしまいます。
この日はこの後に夕食まで留まり(余った食材で新たにBBQをしました)、その後はお茶を嗜みながら談笑したりボードゲームをしたり、爆音で音楽をかけて踊ったりとゆっくりとした時間が流れました。帰ったのは夜9時を回ったころ。ドット疲れが出ました。
この平原でのピクニックは芽吹きの季節である春にしか行えない行事ですので、同僚たちも心から自然を満喫しているようでした。
ラマダンの関係で今年はこの一回しかピクニックが行えませんでしたが、長い夏に備えていい「緑チャージ」となりました。
著者プロフィール
- 牧野アンドレ
イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。
個人ブログ:Co-魂ブログ
Twitter:@andre_makino