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人情味の溢れる台湾で暮らす日々

河浦美絵子|台湾

ドリンクスタンドで起業がトレンド、台湾の若者が創る新しいビジネスの波

若者によるドリンクスタンドでの起業がトレンドとして注目の台湾(Photo by shutterstock)

■台湾の飲料文化「ドリンクスタンド」

台湾で「手揺飲料」とは、主にドリンクスタンド等で販売されている飲み物のことを指す。日本でも大ブームを巻き起こしたタピオカミルクティはその人気メニューの一つだ。烏龍茶、緑茶、紅茶、ミルク、フルーツ果汁、コーヒー、ココア等をベースに、タピオカやゼリー、プリン、ナタデココ、アイスクリームなどをトッピング。氷や砂糖の量も調整可能で、自分好みの飲み物がカスタマイズできる。

暑い時期の長い台湾ではこういうドリンクスタンドの飲み物は、生活から切り離せない存在となっており、一つの飲料文化を形成しているともいえよう。

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台湾発で世界中に広がったドリンクスタンドの人気メニュー「タピオカミルクティ」(Photo by shutterstock)

■台湾のドリンクスタンド事情

経済局の統計によれば、2013年時点で台湾に約15,886軒だったドリンクスタンドの店舗数は、2022年末には28,140軒と、この10年でほぼ倍増している。売上高も10年前と比較して364億元(約1,638億円)から927億元(約4,172億円)にまで成長した。2023年は7月時点で498億元(2,241億円)を突破しており、年度末には1,000億元(約4,500億円)を超えるのでは、と予想されている。

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台湾統計局のデータ(https://www.mof.gov.tw/singlehtml/285?cntId=57474)を元に筆者作成

■台湾の若者がドリンクスタンドで起業するその理由

台湾はコンビニエンスストアの数も非常に多い。現在、台湾全土で13000軒を超えており、その密度は韓国に続く世界第2位。しかし、ドリンクスタンドはコンビニエンスストアの数をはるかに超えており、いかにドリンクスタンドの数が多いのかがわかる。

街を歩けば大手フランチャイズのドリンクスタンドから、独自の新興ブランドまで、様々な形態の店が軒を連ねている。もはや飽和状態であるのではないかと思っていたが、最近、台湾のビジネスシーンの顕著なトレンドとして、若者によるドリンクスタンドでの起業が注目されているのだ。

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 一つの通りに数軒のドリンクスタンドが軒を連ねる台湾の街(筆者撮影)

このトレンドの背景には、若者たちが直面している厳しい経済状況がある。新型コロナの流行や、世界的な物価高の影響により、収入が減り、生活費の負担が増大した。今のこの不景気な状況を打破したいという若者たちにとって、ドリンクスタンドでの起業は、比較的少ない投資で事業をスタートさせることができる選択の一つだ。ドリンクスタンドの飲料は、原材料費が低く、利益率が高いのが特徴で、調理時に火を使う必要がなく、店舗スペースも広く取る必要もない。

もともと独立心旺盛な気質を持つ台湾人。会社勤めよりも自営業者が多い。特に若い世代ほど、自分自身で店舗を開いたり、事業を立ち上げたり、早い段階でビジネスでの成功を収めたいという意欲を持っている。

自分の知らない分野での起業よりも、子供の頃から親しんできた飲み物ならば、ビジネス展開の想像もしやすい。そういった点からもドリンクスタンドの起業は、多くの若い起業家にとっては魅力がある。

不動産仲介業者に聞いたところ、ここ数年、小規模店舗を探す若者が多く、人気の商業地区などは、空き待ちに長いリストができているという。

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開店準備を進めているドリンクスタンド(筆者撮影)

■ドリンクスタンド起業の費用

現在、台湾でのドリンクスタンドの起業には、既存のフランチャイズに加盟するか、自分自身で独自の新興ブランドを立ち上げるか、の2つの方法がある。

すでに認知度の高い既存のフランチャイズに加盟すれば、ゼロから店舗の宣伝をする必要がなく、経営もすでに確立されたビジネスモデルがあり、新たなメニューの考案や、プロモーションの企画等も必要ない。原材料のサプライヤーも安定している。だがその一方で、加盟金やロイヤルティなどの費用がかかる。

筆者が既存のフランチャイズ加盟募集店の情報を調べたところ、すでに誰もが名前を知っているような大手ドリンクスタンドの場合、加盟金は200~400万元(約900~1,800万円)のところが多い。加盟条件に20~35歳などの年齢制限を定めていたり、開店までの実習時間を600時間などと設定している等、かなり加盟のハードルが高いブランドもある。しかし、中堅クラスのフランチャイズでは、20万元(約90万円)ほどから加盟が可能なブランドもあり、相場は100万元(約450万円)ぐらいのようだ。

独自の新興ブランド立ち上げでは、加盟金のない分、その費用を好きなように店舗や商品に費やせる。また、自分のアイディアでいくらでも商品の展開が広げられ、なによりも束縛されない自由がある。しかし、これだけ多くのドリンクスタンドがある中で、新興ブランドの知名度を高めることは容易ではなく、広告、宣伝、マーケティングなど、時間と労力、知識が必要だ。

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毎日、数千杯が販売されるドリンクスタンドの飲み物(Photo by shutterstock)

■独創的なアイディアで他社との差別化が必要

このように、若者の起業も盛んになり、益々、店舗数が増加傾向にある台湾のドリンクスタンドだが、ゆえに競争も激化している。フランチャイズ店、新興ブランド店、どちらであっても、熱しやすく冷めやすい台湾消費者を引き留めるアイディアが必要になる。差別化された店舗デザインや商品のパッケージングも重要な要素だ。

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2022年にオープンの台中発の新興ブランド。39万元(約176万円)で加盟ができる。台湾全土に店舗を展開中。独特なデザインと赤い看板が目を惹く。(筆者撮影)

そして商品も定番メニュー以外に、次々と話題になるような新商品を生み出さなければ生き残りは難しい。実際、インスタ映えする美しい飲み物や、面白いアイディアのトッピングが開発され話題になる。

また、どの店舗も期間限定、数量限定商品の販売をプロモーションしたり、最近では人気キャラクターや、Youtuber、有名人のコラボも頻繁に行われている。

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ラーメンに模したプリンをトッピングしたミルクティ。見た目の強烈さがSNSで話題となった。(筆者撮影)

■台湾ドリンクスタンドの世界進出

今、台湾のドリンクスタンドは、日本をはじめ、アジア諸国や北米、ヨーロッパなどにも広がり、世界中にも出店が進んでいる。特にタピオカミルクティは各地域で現地の風味や特産物を取り入れたバリエーションも登場し、地域ごとの味わいを楽しむことができるようになっているという。

台湾ブランドが世界中で加盟店を広げることで、外国からの投資やビジネスパートナーシップの増加につながる。新しいビジネスモデルや商品、サービスの開発が進み、台湾の経済にもを持続可能な成長を支える重要な要素となり得る。台湾から原材料を国際市場に持ち込めるメリットもある。

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世界へ展開が更に期待される台湾のドリンクスタンド飲料(筆者撮影)

今のこの若者たちのドリンクスタンドでの起業活動トレンドは、新たな雇用機会を生み出し、台湾の労働市場に新しい流れを創る。若いアイディアとイノベーションが、失業率の減少などの社会問題に対しても、新しい解決策を提供する可能性が期待される。

最近、家の近所にも数軒、新興ブランドのドリンクスタンドがオープンした。どのようなメニューがあるのか、どんな策略を講じているのか・・・若者の応援も兼ねて買いに行ってみようと思う。

※円への為替レートは執筆時の1台湾元=4.5円で計算

 

Profile

著者プロフィール
河浦美絵子
海外在住30年。現在、台湾在住21年目。ライフコーチ兼リサーチャー。現地コンサルティング企業勤務を経て起業。キャリアトランジション、自己啓発の専門知識を活かして、日系企業や個人向けにライフコーチングとリサーチサービスを提供している。趣味は旅とマラソンと食べ歩き。

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