人情味の溢れる台湾で暮らす日々
土地の守り神「土地公」の誕生日に廟は大賑わい
■台湾の土地の守り神「土地公」
台湾の生活の中には「拜拜(お参りをすること)」が根付いている。どの街にも廟があり、その土地の守り神「土地公」が祀られている。土地公は人間に一番近い神様と言われ、人々は嬉しいことがあれば土地公にその報告に行き、悩みがあれば、どうしたらいいのでしょうか、と相談に行く。願いごとがあれば祈りに行く。人々の日常に密接に関わっているのだ。
財神ともいわれる土地公は商売を営む人たちからも崇められている。毎月の旧暦の2日と16日には、商売繁盛を祈り土地公への拜拜が台湾の街のあちこちで行われる。
廟に黒塗りの高級車が横付けにされ、企業のお偉いさんらしき人がスーツ姿の部下を何人も従えて中へ入って行き、土地公に手を合わせ、深々と頭を下げ祈っている光景もよく目にする。
■市価10億元の土地に建つ廟
台湾中部の台中。その台中の「七期再開発地域」には、台中市政府の市庁舎があり市政を司る中心地となっている。高級ブランド店の入ったデパート、国家歌劇場(オペラハウス)なども集まる。その周りには分譲価格が数億元もする超高級マンションが建ち並び、その豪邸の建設ラッシュは今も続いている。
そんな高級マンションがそびえ立つ一角に、300年以上の歴史を持つ古廟の「惠來里福德祠」がある。「福德祠」の敷地は周りの道路よりも低くなっているが、大雨でも浸水することもない。青々と手を広げる大きな樹と共に、土地に住む人々に平和と安心をもたらす神様として崇拝され、参拝者が絶えない。
台中市庁舎がこの「七期」へ移転するまでは、このあたり一体はのどかな田んぼであった。それが今、「福德祠」の500坪の敷地の市価10億元(約45億円)とも15億元(約65億円)とも言われている。台湾で一番、土地代の高い場所に祀られている土地公としても有名になった。
■旧暦2月2日は「土地公」の誕生日
昨日、旧暦の2月2日(2023年は2月20日)は土地公の誕生日。この日は台湾中で土地公のお祝いに人が廟に足を運ぶ。私も「福德祠」にお祝いに行ってきた。
朝7時。すでに多くの人がお祝いに来ていた。皆、手に手に土地公への祝いの供え物を持って来ている。供え物をテーブルに並べる人、人の流れを誘導する人、線香に火を点す人、人の流れを気にせずその場で手を合わせて祈る人。廟内はごった返している。
持参した供え物は各自が好きなところに並べる。すでに置く場所もないほど積み重ねられたところに、後から来た人が更にどんどんと置いていく。花や酒に鶏肉や魚まである。土地公は甘党だと言われており、クッキーや餅などの菓子や果物もたくさん並ぶ。
これらの供え物は廟に寄付するのではなく、参拝が終われば各自が持ち帰って食べるのだ。だが、それぞれに名前が書いてあるわけでもなく、自分の供え物がどれだかわからなくなって探している人もいた。
■参拝もエネルギッシュな台湾
今、台湾では環境保護の観点から、線香を焚くことを禁止している廟もある。線香から出る煙が大気汚染につながるというのだ。「福德祠」ではまだ皆、それぞれが線香に火を点けて参拝できる。線香の煙がモクモクと漂う中、土地公に祝福を伝える列に並ぶ。
時間が経つにつれ、参拝客がどんどんと増え、廟の中はまるで朝の通勤ラッシュのようだ。土地公のお祝いのめでたい場所だというのに、廟の中では「列に割り込みをした、しない」で、大声での小競り合いなどが起きている。こんなところもエネルギッシュな台湾らしい。「土地公」も苦笑いしながら、そんな様子を見守っていそうだ。
それでも土地公を敬い、誕生日を祝う気持ちは皆、同じだ。年配者から子供まで、熱心に手を合わせ参拝する。
台湾では参拝の際には「名前」「住所」を神様にきちんと伝えなければならない。
私も正月や自分や家族の誕生日、仕事で大事な契約をする日などに、この「土地公」へ拜拜に来て祈願する。ここまで台湾でなんとか無事に生活できているのも「土地公」のおかげだと思っている。
外国人である私の誕生日祝いの言葉も届くだろうか。いつも見守ってくれている「土地公」に菓子のお供えをし、名前と住所を唱えて線香を手向け、手を合わせた。
「「土地公」様。お誕生日おめでとうございます。これからも台湾のこと、日本のことを見守ってください。そして私の心願成就も、どうかよろしくお願い致します」。
著者プロフィール
- 河浦美絵子
- 海外在住30年。現在、台湾在住21年目。ライフコーチ兼リサーチャー。現地コンサルティング企業勤務を経て起業。キャリアトランジション、自己啓発の専門知識を活かして、日系企業や個人向けにライフコーチングとリサーチサービスを提供している。趣味は旅とマラソンと食べ歩き。