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ダイバーシティ先進国ベルギーから観る欧州 LGBTQI 事情

ひきりん|ベルギー

欧州では既に同性愛者の首脳が誕生している【前編】

左:ブルナビッチ・セルビア首相、中央:ベッテル・ルクセンブルク首相、右:バラッカー・アイルランド副首相(前首相・次期首相) Адміністрація Президента України / CC BY、EU2017EE Estonian Presidency / CC BY、European People's Party / CC BY

先週菅義偉氏が第99代内閣総理大臣に就任した。

菅新首相は縦割りや悪しき前例主義打破、既得権益に斬り込むとの触れ込みで、河野太郎氏を防衛相から行政改革相に横滑りさせ、デジタル庁を設置する方針を示し、携帯電話料金の値下げなど具体的な政策も掲げて、その政策の判りやすさも各大臣の取り組みへのスピード感もあり、各社世論調査でも軒並み高い支持率を稼ぎ出し幸先良い滑り出しだ。

その他の新内閣閣僚の顔ぶれを観ても堅実な陣容であると言えそうだが、ただ安倍政権の政策を引き継ぐとしながらも、その一つである「女性活躍社会」については、キャッチフレーズどおりに具現化したという姿勢はあまり感じられない。新型コロナ感染症対策がメインながら不妊治療の保険適用拡大という点が大きな「女性活躍」関連政策と言えるのかもしれない。田村憲久氏を厚生労働大臣に再任の上、三原じゅん子氏を副大臣に据えたあたりは訴求力も狙った人事と言えそうだ。ただ、これとて男性不妊の可能性もあるのだから、単純に「女性向け」政策とは言えない気もするが。

国会議員における女性議員比率自体が世界に比べて極端に低い状況(14.4%)では致し方ない面もあるのだろうが、その女性国会議員比率が西側ヨーロッパ諸国で軒並み30%以上、一番高いスウェーデンで47%と比べると隔たりが大き過ぎる。ちなみに筆者の住むベルギーは41.90%だ。

そのヨーロッパ各国の首脳の顔ぶれを眺めてみると、日本とは全く様相を異にしており、ドイツのメルケル首相を筆頭に多くの女性政治家が首相や大統領の座に就いている。筆者が住むベルギーのウィルメス首相も女性だ。

ヨーロッパでは同性愛者の首脳が誕生する時代

そして、ここヨーロッパでは更に一歩進んで、国のリーダーに同性愛者が複数誕生している。

冒頭の写真の3人は、左からブルナビッチ・セルビア首相、ベッテル・ルクセンブルク首相(中央)、バラッカー・アイルランド副首相(右、前首相・次期首相)とそれぞれ現職。横顔を順に見ていきたいが、まずは一人目。今回はベルギーの隣、ルクセンブルクの グザヴィエ・ベッテル首相 Xavier Bettel2013年~)を取り上げたいと思う。

Xavier_Bettel,_2017_CC.jpgルクセンブルクはフランス、ドイツ、ベルギーに挟まれ、国語のルクセンブルク語に加え、フランス語とドイツ語が公用語。面積は神奈川県と同じぐらい、人口は約61万人で日本で一番少ない鳥取県より少し多いという規模の極小国。GDP4分の1を占めるほど金融業が強く、一人当たりのGDPではここ数年世界1位の座をキープしており、その数字は同26位の日本の3倍弱と驚異的だ。人口の約4割が欧州諸国からの外国人が占め、給与水準の高さから周辺国からの越境労働者も20万人前後という数字に達してきており、総労働人口の約45%を占めるまでになっている。

セクシャリティに焦点を当てるのではなく、政策や人物本位で

そのルクセンブルクの首相2期目に入っているベッテル氏は、ルクセンブルク市議会議員選挙で1999年に初当選してから連続当選を重ね、20052011年には助役を勤め、2011年から2年間ルクセンブルク市長在任。また市議会議員時代、市長時代を通じて国会議員も兼務した(ヨーロッパでは地方議会議員や首長と国会議員との兼務は珍しいことではない)。2013年の総選挙の結果、連立交渉を経て同年12月に首相に就任、ルクセンブルクで34年ぶりの政権交代を果たした。ベッテル氏は市議会議員時代にラジオのトーク番組で同性愛者であることを公表(カミングアウト)。その後のインタビューでも「私は一度きりの私の人生、(ゲイであることを)隠したくない」「私は"ゲイの候補者"ではない。ルクセンブルクでは候補者が同性愛者か異性愛者かで投票の判断をしない」などと述べていたが、同性愛者が国のリーダーに選ばれたことは画期的な出来事だった。

これまでのベッテル内閣の実績としては、コロナ前までは欧州でも屈指の経済成長率と低失業率を維持し、ブレグジットによる金融機関の誘致や、その金融部門からより高い成長分野である宇宙事業などへ軸足を移す施作などを順調に進めてきている。首相自身も関係する同性婚、そして中絶法の改正で人工妊娠中絶を非犯罪化し、妊娠中の女性による自己決定の範囲を拡大し条件を緩和。こうして、性的マイノリティや女性の生きやすさを後押しした。自らは改革中道右派の民主党に属しながらも、連立を組むルクセンブルク社会主義労働者党と緑の党が主導する左派リベラル的な考えを盛り込んだ憲法改正案(1.選挙権の18歳から16歳への引き下げの是非、2.国政での外国人参政権の導入の是非、3.内閣における閣僚任期を連続10年までと制限することへの是非)を2015年国民投票にかけたが、いずれも圧倒的な反対多数で否決されてしまい、2018年の総選挙での再選が危ぶまれる結果ともなっていたが、見事に再登板することとなった。また2020年3月には、主に低所得者政策として、国内を走る全ての電車、トラム(路面電車)、バスなど公共交通機関を完全無料化。この無料化は、他方で、移民や越境労働者の増加に伴って悪化した都市部における渋滞緩和の切り札としても期待されている。

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著者プロフィール
ひきりん

ブリュッセル在住ライター。1997年ドイツに渡り海外生活スタート、女性との同棲生活中にゲイであることを自覚、カミングアウトの末に3年間の関係にピリオドを打つ。一旦帰国するも10ヶ月足らずでベルギーへ。2011年に現在の相方と出逢い、15年シビル・ユニオンを経て、18年に同性婚し夫夫(ふうふ)生活を営み中。

ブログ:ヨーロッパ発 日欧ミドルGAYカップルのツレ連れ日記 

Twitter:@hiquirin

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