コラム

レイプ事件を隠ぺいした大学町が問いかけるアメリカの良心

2015年09月02日(水)17時40分

 クラカワーの本で、レイプ裁判で加害者に無罪を言い渡した男性陪審員がレイプとは次のようなものだと断定している。「(1) A stranger jumps out from the bushes; (2) There is no (assault) unless the woman puts up a fight, to the death if necessary.((1)見知らぬ人が茂みから飛び出してくる (2)被害者の女性が死ぬまで抵抗しないかぎりは暴行ではない)」

 知り合いの男性からの強制的な性交渉を女性が受け入れて生き延びたのだからレイプではないというのが彼の根本的な考え方だ。しかしこの男性は例外ではない。いまだに多くのアメリカ人がそう信じている。

 一方でアメリカの大学は入学生に最初からレイプの定義を言い渡している。過去に性的な関係があっても、現在キスなどをする関係にあっても、途中でどちらかが「No」、「I don't want to do it」と意志を明らかにしたら、ストップしなければならない。相手が拒否や抵抗をしても性交渉を続けたら、それはレイプなのだ。「部屋に入れてくれた時点で許可を得た」というのは間違いだ。

 問題は、それが学生の間に浸透していないことだ。だから、事件が起きてから被害者と加害者に分かれて争い、深く傷つき、人生を台無しにしてしまう。

 本書を読めば、被害者だけではなく、加害者にも、そして加害者の親にもなりたくないと思うはずだ。

 それを実感してもらうためにも、これから大学に行く高校生、親、教師、レイプ被害者を責める傾向のある人々、全員に読んで欲しい本だ。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

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