コラム

そもそもビジョンがない?──「政策」ばかりで「目的」のない選挙戦の不思議

2022年07月06日(水)15時35分
石野シャハラン
国会

KIYOSHI OTAーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<安全保障、経済政策、コロナ対策、少子化問題をテーマに、ほとんどの政党の公約が同じ。しかし、本来は理想を追求するのが政治の姿。政策という目先の解決案ばかりの公約だけでは、投票率は今回も上がらない>

新型コロナが落ち着きを見せてきた昨今、2年ぶりに仕事でもプライベートでも人と対面で会えるようになり、都心を訪れる機会が増えてきた。都心では街を歩く人の多さに驚くとともに、「なんて平和なんだろう」と感じることが多い。

ロシアの侵攻を受けているウクライナと比べるまでもなく、アメリカやヨーロッパと比較しても日本は平和である。アメリカの銃乱射事件や、ドイツの天然ガス不足、イギリスの鉄道ストライキなど、不穏なニュースばかりが耳に入ってくるから余計にそう思えるのかもしれない。

でもそれを差し引いても、欧米ほどの物価高にもならず(企業努力のおかげ)、デモもない(誰も主張したいことがない)。戦争にも切迫感はなく(ウクライナは遠い)、コロナでの致死率は遂にOECD諸国で最低となった(日本のマスク着用率はいまだに90%だ)。日本は、本当に静かで平和でクールな国だ。

7月10日投開票の参議院議員選挙がこの静けさを打ち破る気配は今のところない。どの政党の公約も大して変わりがなく、安全保障と経済政策とコロナ対策と少子化問題ばかり。

私がいつも日本の選挙に不思議に思うのは、政策という「手段」の話にばかりに終始していることである。

例えば経済政策、ほとんどイコール景気対策だが、「景気を良くしてこうなるのだ!」という「目的」が圧倒的に語られない。

少子化対策も同じである。子育て支援にプラスして移民を受け入れるか入れないか、という議論ばかりで、「人口減を食い止めてこういう国になる!」という話が語られない。社会福祉を手厚くして、国民一人一人が幸せを実感して「で、それはどういう国なのだろうか?」という議論がない。

日本の選挙には、というよりそもそも日本には、ビジョンがないのかもしれない。日本がどういう国でありたいのかという話を聞いた記憶がない。私が不勉強なだけかもしれないが、国のあるべき姿などという話は、その国の住人なら、外国人も含む全ての人に実感され認識されるものだと思う。

例えばアメリカでは自由・平等・自主独立が社会を構成する基本理念として理解されているし、フランスには革命によって勝ち得た「共和国理念」があり、イランはイスラーム共和制を実現するための国家である。

そう考えれば、アメリカが「アメリカ合衆国」でフランスが「フランス共和国」、イランが「イラン・イスラム共和国」であることは「名は体を表す」なのだろう。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story