ブラックホールによって引き裂かれた星の結末が明らかに
星のガスのかなりの部分がブラックホールから外向きに吹き飛ばされる(credit:NASA / CXC / M.Weiss)
<恒星がブラックホールによって引き裂かれた後、何が起こったのかを調べた....>
星が超大質量ブラックホール(SMBH)に近づくと、その巨大な潮汐力によって引き裂かれ、スパゲッティのように細長く引き伸ばされる。これを「潮汐破壊現象」という。
米カリフォルニア大学バークレー校の研究チームは2019年10月、地球から2億1500万光年離れたエリダヌス座の渦巻銀河で100万倍以上の質量のブラックホールが引き起こした太陽のような恒星の潮汐破壊現象「AT2019qiz」を観測。
この恒星の死から放出された光の偏光をとらえ、この恒星が引き裂かれた後、何が起こったのかを調べた。一連の研究成果は2022年6月24日に「王立天文学会月報(MNRAS)」で発表されている。
恒星の物質の多くが秒速1万キロもの高速で吹き飛ばされた
2019年10月8日の分光測定では、この恒星の物質の多くが秒速1万キロもの高速で吹き飛ばされ、球対称のガス雲を形成したことが示唆された。研究チームの推定によると、この球状のガス雲の半径は約100AU(天文単位:約150億キロ)。これは地球の公転軌道の100倍に相当する。
研究論文の共同著者でカリフォルニア大学バークレー校の天文物理学者アレクセイ・フィリペンコ教授は「潮汐破壊現象でスパゲッティ化した恒星の周辺のガス雲の形状を推定したのは今回が初めてだ」と解説する。
この観測結果は、これまでに観測された数多くの潮汐破壊現象で、X線などの高エネルギー放射線が観測されなかった理由の裏付けにもなっている。恒星から引きはがされた物質によって発生し、ブラックホールの周囲の降着円盤に巻き込まれるX線は、ブラックホールからの強力な風で外側に吹き飛ばされたガスによって見えなくなる。
ブラックホール周辺のガスに何が起こっているのか
研究論文の筆頭著者でカリフォルニア大学バークレー校の大学院生キショア・パトラ氏は「この観測結果によってこれまで理論的に提唱されてきたいくつかの説が排除され、ブラックホール周辺のガスに何が起こっているのか、より限定的に考えることが可能となった」とその意義を強調する。
このような潮汐破壊現象は地球から遠く離れているため、その現象の幾何学的形状や爆発の構造を研究することはできない。フィリペンコ教授は「偏光を研究することで、その爆発における物質の分布などを推論することはできる」と指摘している。