外国人受け入れの是非は、経済的利益だけで計算できるほど単純ではない
AMERICA’S IMMIGRATION CALCULUS
新たにアメリカ市民になった人々が帰化の式典で国歌を歌う Shannon StapletonーREUTERS
<移民の労働力によって多大な恩恵を受けているアメリカでも、外国人の受け入れは大統領を悩ませる難題>
ドナルド・トランプの2016年の大統領選勝利のニュースが流れる頃、明石康元国連事務次長に東京・赤坂近辺でのランチに招待していただいた。「今後10~20年の間にアメリカの人口動態が変わり、そのため非白人の声を軽視することは不可能になる」、そして「この選挙は白人にとって、その潮流にあらがう最後のチャンスになるかもしれない」と、明石氏から説明を受けた。
アメリカはもちろん、移民の国だ。19年現在で、アメリカの労働人口1億6350万人のうち2840万人、つまり17%が外国生まれだ。これらの移民たちは、出生率の低下による労働力不足や熟練労働者の不足に対処する上で役立っている。彼らはまた、アメリカの人的資本を多様化することで労働市場に刺激も与えている。
高い移民比率は、アメリカのGDP成長率がたいてい日本を上回る理由を説明する上でも役立つ。確かに、移民は文化や言語、先住の人々との融和などの観点で社会的な問題を生じさせ得る。だが、移民の厳しい制限は、アメリカの伝統的な繁栄の源を絶ち、経済成長の将来性に打撃を与える。
資本流入などの国際的な(経済)要因と同様に、移民は労働者を豊富で廉価な労働市場から、人手不足かつ高賃金の労働市場へと移動させる。つまり労働力を効率的に機能させるための再配置は、国民総所得の増大に貢献する。一般的には、労働力の輸出国も輸入国も概して利益を享受できる。
移民を歓迎しつつ規制もしてきた
しかし、労働力の輸入国において全ての人口集団が移民から利益を得るわけではない。例えば、似たような職を持つ移民と直接的な競争に直面する、比較的いい所得を得ているアメリカ人労働者は失業しやすい。アメリカの生活水準は世界一で、国民1人当たりの所得はメキシコの3倍以上になる。もしアメリカがメキシコから無制限の移民を受け入れれば、メキシコ国境付近の賃金水準はメキシコ並みにまで下がるだろう。
そのため国全体としての利益を享受しても、移民と競合することになるアメリカ人は移民規制の緩和に反対しがちだ。だからこそ、アメリカの政策立案者には単なる移民の経済学的計算を超えた考えや、政治的配慮が求められる。
アメリカの政権は伝統的に移民を歓迎する政策を取ってきた一方で、過剰な流入を防ぐための規制措置も行ってきた。過去には露骨に移民に対して差別的な法律もあったが、それでも連邦政府は流入のバランスを保ってきた。